灰色の瞳に映ったものは

2/20
前へ
/29ページ
次へ
黄金週間(ゴールデンウィーク)だった5月から約2か月が過ぎ,世の中は7月を迎えていた。 じわじわと迫る,夏の暑さ。 芽生とアッシュは,夏があんまり好きじゃなかった。中学生の時分は,お散歩コースのひとつに川が傍にあるので,夏場はよく水浴びをさせて涼ませていた。 短毛種のアッシュと,ラブラドール・レトリーバーのゼンを連れ出しては,遊ばせていたっけ! ゴールデン・レトリーバーのレモンちゃんや,Eコッカー・スパニエルのマイヤーは毛が長いので,乾かすのに時間がかかり,人間の方はヘトヘトになって疲れる。 特に,看板娘のレモンちゃんがびしょ濡れでカフェ(ワンダー・ワンダー)に戻ったら,母親とカフェのチーフである小夏ちゃんから,黄色い悲鳴と大目玉を喰らう。 小夏ちゃんを怒らすと,お店が回らなくなるのは困るから,レモンちゃんとマイヤーの水浴びに関して,芽生が責任を持ってお風呂とブローを行う取り決めをする羽目に。 今は,その場その場で変調を来すのは少なくなったが,処方されたお薬が身体に合ってきた。その甲斐もあって,リハビリで散歩出来る行動範囲が徐々に広がってきた。 散歩大好きなアッシュたち,ワンダー・ワンダーの子どもたちと,にっこり食堂にいるおばあちゃん達のお陰なのかも知れない。 リハビリと称した散歩は,1か月以上続いている。遅滞していた動画配信も,身体が辛くない頃合いで作ると約束した。 みんなの配慮が,芽生には嬉しかった。こころの病の『や』の字は,聞いてこない。本人が伝える気がないのだから,無理矢理聞き出そうとしないその優しさが,痛い程伝わってくる。 そして,水曜日の朝。 早朝5時にアラームが鳴り響く。頭がぐらつくのと,胃の具合が微妙な芽生。ゆっくりと身体を起こし,水が入ったピッチャーからコップに水を注ぎ,喉を潤していく。 この日の散歩は,長距離のコースとなっていて,子どもたちもその日ごとにメンバーが入れ替わる。 身支度を済ませ,散歩用のリュックサックには,必ず1リットルの水を用意して背負っている。勿論,途中で疲れた子どもたちに,飲ませる為に忍ばせておく。 アッシュと一緒に食堂を離れると,まずカフェへと移動する。アッシュは,早歩きしていないかと芽生をチラ見し,歩くペースを合わせて行動する。 店の裏側にある勝手口から入り,鍵を開けてカフェに入ると,一目散に向かうのは犬部屋と呼ばれる子どもたちの住まいだ。 朝の健康状態を確認し,朝ごはんを用意する。それが済むと,隣のねこ部屋と2階にある隔離部屋でも同様に行い,朝ごはんを与える。 それが終わると,犬部屋にあるテーブルに連絡事項のメモをみて,連れていくメンバーを選ぶ。 今日は,先月愛護センターからお迎えした,生後1歳の子どもが3匹。同伴するのは,ゼンとマイヤーだ。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加