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この子たちに何の罪があるって言うの?精一杯活きているだけで,こんな報いを受けなきゃいけないなんて,残酷過ぎるじゃないか。
沸き上がる怒りをどうにか鎮めると,男の子を両腕で抱き上げた。
ほんのりとミルクの甘い匂いとドライフードの混ざった匂いに,芽生は一種の安心感を覚えた。
この子たちの首に,首輪がしてあるのに気づいた。男の子にはチャッピー,女の子にはユキネと名前が付けられている。
他の子には,名前を示す首輪は見当たらなかった。名前をつけた主は,2匹に何らかの思い入れがあったんだろう。
この子たちに悲しい思いまでさせて,主はどんな気持ちで河原の草薮の中に置いたのだろうか。あれこれ考えたって,真相は闇に包まれたままなのだ。
12匹の子どもたちの対処に,そう時間は掛からなかった。緊急の保護には,両親への連絡が欠かせない。一報をメールにて送信したあと,母親が急いで車を持ってきてくれた。
車からケージを持ってきて貰い,子どもたちに入って貰う。次に母方の伯父に連絡して,子犬の遺棄についての事情を説明する。
伯父は,街の警察署に勤務する警察官で,母のカフェで預かるという方向で話を纏めてくれる事になった。
ここ数か月,捨て犬の話が聞かなくなったと思った矢先に,大量の子どもたちの遺棄。
カフェにあるシェルターが手狭で,手分けして預かりボランティアさんに連絡するも,どこも手が回らないとの返信に,頭を抱えてしまった。
「う~ん,どの子たちも安定しているね。健康状態も異常はないし,こっちの雑種の女の子が皮膚が荒れているから,保湿用の乳液と保湿クリームを出しておこう」
獣医師である父の陽介は,芽生の見立てにさも驚きはしなかったものの,大量の子どもたちの保護に戸惑っていた。
それもそうだ!多頭飼育崩壊で路頭に彷徨う犬や猫は,保護団体が保護しない限り活きていく方法を知らない。健康状態や環境も,悪くなる一方だ。
カフェにある,保護犬・保護猫のシェルターにも限度がある。協力関係にある地域ボランティアさん達の手を借りたくても見つからない。
「芽生,シェルターにあと何匹,子どもたちが入れる?」
「犬部屋?あと6匹,だけ。パパ・・と,ママの家で,1匹ずつ,保護する。わたしは・・この,雑種の兄妹,預かる。残るのは・・2匹,だけ」
父との相談を重ねた結果,動物病院の看護師さんと,カフェのスタッフからは小夏ちゃんが保護を申し出てくれた。
出勤の際は,それぞれの職場に共に連れていき,面倒を見る事が可能だ。
芽生は,子どもたちの発見から現在の状況をまとめた動画を,急ピッチで仕上げている。フラフラになりながらも,子どもたちを救いたい一心で画面に張り付き,思いの丈をテロップ上に書き綴っていく。
その執念は,1枚の手紙に認めた覚悟の想いが文章から伝わってくるのが分かったから。
「おーい,何で出ないんだよ,バカ芽生」
文句を漏らし,やや呆れた口調が携帯電話から響いてきたのは,保育園からの腐れ縁の光弥本人だ。
「で,頼んだ案件・・難しい?」
「俺様を誰だと思ってるんだよ!お前の唯一の,幼馴染み様だぞ。危ない橋は渡りたくないけど,芽生と湖々菜の願いしか,俺は聞かん」
そう言って,光弥は芽生からの僅かな情報を元に調べてくれた。
元々はちゃんとしたペットショップみたいで,身内の不祥事が祟って経営状態が悪化して行ったんだとか。
「探している奴って,ショップの店員かも知れないんだよな?そいつをどうするつもりだよ」
その言葉に,暫くの間無言を貫いた。言いたい言葉を考えていると,
「ワンパンするか。お前の想いを込めて」
光弥には,性格を知られているが故の軽い皮肉に『そうだね,1発は・・したいね』と呟いた。
身内に警察官がいる以上,迷惑を掛けられない。かと言って,子犬の遺棄を指示させたショップにひと泡吹かせたい。
さて,どうやって駒を進めるか?使える駒は慎重に選びたい。それに,材料がいくつか揃ってはいないのが痛手で,少ない駒で挑んで失敗したら,木っ端微塵もいい所だ。
「まぁ,思い詰めるなよ。お前は考え過ぎる節があるからな。俺達が付いてる,どんな苦境に立ったって,3人で乗り越えてきたじゃないか。それでも駄目なら,大人を・・」
「いや。大人と警察・・駄目だ,よ。何時だって,わたし達の声・・聞いて,くれなかった,じゃない」
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