11人が本棚に入れています
本棚に追加
保護犬と食堂とわたし
わたしには,1頭の大きくて愛らしい相棒がいる。名前は,アッシュ。
ロットワイラーという大型犬で,心根の優しい反面,見た目のゴツさに周囲の人は,みな驚いてしまう。
わたしを含めた家族は,そのギャップが良いんだと言ってよく可愛がっていた。世界で一番愛らしくて頼もしい,掛け替えの無い存在になった。
高校に入学し出した頃・・・不穏な空気が,両親の周りから漂い始めたのは。
両親が些細なきっかけで大喧嘩をし,夫婦別居をし出したあたりから,わたしの身体とこころが悲鳴を上げ始め,自室から出られず寝込む事が増えていく。
引き籠りの誕生だ。
「芽 生~?」
心配して声をかけてきたのは,姉の夢芽だった。姉はわたしの7歳上で,トリマーを生業にしている。
子供の頃,姉が飼い犬のカットをしている姿に,目をキラキラさせながら見ているわたしがいて,普段見る事のない姉のその姿がとても羨ましかった。
わたしは,自宅から程近い距離にある高校に通っていた。成績も上の下よりすこし上をキープし,将来は動物に携わる仕事をしたいと思っていた。
父は獣医師,母は保護猫と保護犬の保護と譲渡を行う仕事と,犬猫のカフェを運営している。
そういった環境に居るものだから,自然とやりたいものが決まってくるんだよね。
寝込む事が増え出してからと言うものの,学校に行く回数が減ってきた。クラスメイトや先生はわたしの事情に入り込めず,
表面上では心配するそぶりを見せても,時間が経過していけば,存在すらしないものと気持ちを切り替えてきた。
怠さと吐き気,やる気のなさ。毎日が辛くて,外の空気にあたる気持ちすら起こらない。
そんな鬱々とした毎日に踏み込んできたのは・・
「お邪魔しま~す」
毛布を被って布団に踞っていたわたしの前に現れたのは,母の妹である詩織だった。
「しーちゃん?」
母の1回り下である詩織は,あっけらかんとした性格で,父方の祖母・雅が営む食堂のスタッフとして働いていた筈だ。
最初のコメントを投稿しよう!