灰色の瞳に映ったものは

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驚く艶珠は,ぐちゃぐちゃな顔をする九条にハンカチを渡し,芽生はカバンから取り出したおいなりさんが詰め込まれたプラスチック容器から,艶珠の肩にいる白いきつねちゃんに食べさせていた。 「こら!なに餌付けされてるのよ。えっ?このおいなりさんが,ジューシーで美味しいの?困った子ね~」 そのやり取りは,他人から見たら独り言を言ってる様にしか見えず,怪しい人に見えるのだろう。 ただ,芽生の目にはそのやり取りが楽しくて,聞こえないように笑うのが精々だった。 「涼宮さん,今回ここに来たの,大量遺棄の件ですか?それとも・・別のモノ?」 きつねちゃんが大きな口を開けて,おいなりさんを頬張る姿を呆れながら見ていると,芽生の質問にさらっと答えてくれた。 「う~む,私の依頼主は滅多に外に出られない人でね。私はその依頼を元に捜査しているの。大量遺棄の件は,もっち(・・・)のおじさんからも相談をされているし。葛城さんが関わると,面倒になるから」 神崎の人間は,代々神と呼ばれる高レベルの精神体と意思疎通が出来る一族で,芽生は水龍の加護と霊獣と呼ばれる,白狐に可愛がって貰っている。 八尾の白狐・白波(しらなみ)は,水龍と呑み仲間で,代々涼宮家と縁があるらしい。 「そうそう,うちのお義母さんが,あなたに宜しくねって。あの呑んだくれは,ちゃんと仕事をしないと,怒られるわよ。黄桜さまにチクってやろうかしら?」 くすくすと笑う芽生に,仕事モードに気持ちを切り替える艶珠。 「色々と脱線しちゃったけれど,私が気にかけているのは,もうひとつの件。依頼主が言うにはね,敵側を抱き込んで,二重スパイを仕立てろと言っていたのよ」 二重スパイに反応する芽生は,とっさに北斗の顔が浮かび上がった。芽生にとっては,優しくて頼もしい兄の様な人。 『ア レ』が関与している上,親族の北斗ですら信用しておらず,猜疑心の塊の『ア レ』を騙し通すには,感情を殺し仲間たちを信用させて,実行に移せる人間が必要なのだ。 北斗にその役目を追わせるのは,気が重い。だが,北斗しか適材する人間がいないのだ。 「依頼主さん,メールくれた。2枚目のメール,再来週のどこか・・起こる事,示唆している」 芽生は携帯のメールを開き,艶珠に見せた内容に唸っていた。 「どうして,再来週だってわかるの?」 「来週の土曜日・・大量遺棄させた,ペットショップ。イベント・・参加させる。もし,その前なら,こんなメール・・来ない,と思う」 大量遺棄の件を艶珠たちに経緯を話し,悔い改めさせる為に芽生が取った,罪の軽減策としてペットイベントへの参加を捩じ込んだのだ。 ペットショップの子どもたちを,この場で新たな家族へ送り出し,遺棄した子どもたちも同時に,ずっとの家族を探し出しワンダーから卒業させる予定も含まれていた。 綿密な計画を艶珠に相談し,やるべき事を着々と進める芽生は,北斗をどの段階で話すか悩んでいた。 「ちびすけ,ばあちゃんの手当て,終わったぞ。早く連れていかないと,病院閉まるんじゃないのか?」 ハッとした芽生。時計を見ると,時刻は夜の18時半になっていた。慌てた芽生に,艶珠が九条に指示し,あかねとひまわりを乗せて病院へ連れていかせ,治療が済んだら自宅へ送り届ける様に伝えた。 「お父さん,来てくれないの?」 ひまわりの悲しそうな顔に,グッと堪えながら 「私の可愛い天使ちゃん。芽生ちゃんとお仕事の話がもう少しあってね,それが済み次第病院へ向かうから。一緒に晩ごはん,食べましょう。百合ちゃんも,後で駆けつけてくれるから」 「お母さん,来てくれるかな?」 「まあ,忙しい人だけど,家族の一大事に駆けつけない女とは,思えないわね」 後ろ髪引かれる想いで,母親と娘がその場を去っていく。 「涼宮さん,大丈夫?辛そうだよ」 「あら,ご免なさいね。仕事と関係のない事に巻き込んでしまって。あなたも身体が辛い筈なのに,厄介事に巻き込まれて」 そんな事はないと,首を横に振る。
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