保護犬と食堂とわたし

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「んもぅ~,こんな所で油を売っているんだったら,(みやび)ママのお店を手伝いしなよ~」 学校にも行けず,両親との関係にギクシャクしていた芽生に,詩織が救いの手を差し伸べてくれた。 あの詩織の性格だ,そんな訳ないと頭の片隅で突っ込むが,詩織の口からは到底信じられない言葉を耳にする。 「芽生,私にはあんたの抱えている物がどれ位深いかは,分からない。どうせ,お姉ちゃんとお義兄さんのどうでもいい事で,あんたが心を痛める必要は無いんだよ」 詩織が言うには続きがあり,今の学校を辞めたって,別の方法で勉強したって良いし,祖母が営む食堂の2階に,芽生が住める部屋があるから,そこで生活をしたら?と提案してくれたのだ。 芽生は,床に敷いてあるペットベッドに寝ころぶアッシュに視線を移す。 最愛の相棒であるアッシュと,離れるつもりは毛頭にない。 それを見越していたのか?詩織は芽生さえ良ければ,アッシュも連れてきて良いと言ってくれた。 悪魔の囁きにも似た詩織の言葉に,芽生の複雑な気持ちが徐々に固まっていった。 それから数週間が過ぎ,詩織が両親を説得させて高校への退学届けと,引っ越しが怒涛のごとく完了した。 両親が許した中に,週に1度は姉の勤めるサロンと,母親のいるカフェに,手伝いに行く事とある。 出来れば,顔を見たくない母と話す気持ちはないが,新天地で暮らす条件を拒否すれば,あの狭くて暗い世界に逆戻りをするのは,酷な事だ。 苦虫を潰した様な顔をする芽生は,無言で頷くしかなかった。詩織は,無言のまま突っ立っている芽生を助手席に乗せ,後部席にアッシュを乗せる。 夢芽はお店にあった,大きいサイズのエコバッグに何かを沢山詰め込んで,手渡した。 中に入っていたのは,芽生の好きなお菓子と,アッシュのおやつがこれでもかと言わんばかりに詰め込まれていた。 「お姉ちゃん,ありがとう」 青白い顔に浮かぶ笑顔に若干の疲れは見え隠れするが,芽生が出来る精一杯の感謝の言葉だった。 「何言ってんのよ!また逢えるんだから。頑張ってらっしゃい」
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