きゅうりに水をやる

1/16
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
 夏が暑すぎるので、夫がきゅうりの種を買ってきた。巷で流行のグリーンカーテンを作ろう、と言うのである。  グリーンカーテン。確かに必要かもしれない。 「いいね、やろうやろう」  私は夫の提案に同意した。  だって今年は異常気象かっていうくらい、暑い。室内は四六時中エアコンが稼働している有様だ。このままではオーバーヒートして壊れてしまうのではないかと、心配になるくらいだった。  それに「緑を育てる」という行為自体が、何だか好ましいイメージだった。「育てる」ということ自体が第一道徳的だし、精神の安定にもつながりそうだ。特に妊娠中で気持ちの浮き沈みが激しい今日この頃、「緑を育てる」ことが何らかの打開策になるかもしれない、そんな気もした。もしかしたら、夫は近頃何かと不安定な私のために、この案を思いついたのかもしれない。そんな気もした。だとしたら、優しすぎる。なんていい夫なんだ、夫の鑑だ。そう思った。だから、嬉々としてきゅうりの種を植える夫の後ろ姿を、私はいとおしくて仕方がないという目で見守っていたのだった。    そう、私は妊娠中だ。妊娠中なのだよ。バカヤロー、妊娠中だっつってんだよ!
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!