きゅうりに水をやる

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「沖縄土産だよ。沖縄って言えば、ハイビスカスだな、と思って」 「……えっ」  言葉を失って、そろそろと私はその花を袋から出した。  出てきたのは植木鉢だった。ハイビスカスの鉢植えだった。ハイビスカスはその派手な赤い花びらを、私に向かってぴんと開いてみせている。 「えっ、待って。分かんない、分かんない。何これ」 「だから、ハイビスカス」 「えっ、えっ? 何で、買ったの」  すると、夫はこう言ったのである。 「誕生日だから」と。 「……えっ。誰の?」 「何言ってんの。お前のだよ。明日誕生日だろ?」 「あっ、そうか。そうだった。え、待って、何? 何で? 何で、誕生日だから、ハイビスカスなの?」 「え、だから、プレゼントだよ」 「ぶ、プレ?」  プレゼントだと? 「お前、植物育てるの、好きそうだったから……」 「はあー?」  はあー、どっこい!  思わず演歌歌手並みのこぶしが効いてしまったことは、言うまでもない。  ただその後、私は演歌歌手というよりラッパーだった。
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