きゅうりに水をやる

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「う、うん……分かった。何かごめん」 「あとさ。これから夕方も水やっといてくれる?」 「あ、え? 夕方?」 「うん。暑いから。すぐ土乾いちゃうから」 「あ、ああ……分かった」 「見る?」 「え、何を?」 「きゅうり」  枝豆とビールで腹を落ち着かせた夫は、おもむろにスマホを取り出した。  画面には夫が撮った様々なきゅうりが映し出されていた。ほぼ全面緑と黄色、あるいは空色と緑で構成されている。写真の中で、きゅうりはアハ体験のように、目に見えない速度ですくすくと成長していた。 「見て。もうこんなに育って」 「ほんとだ。もう食べれるかなぁ」 「まったくお前は。食いしんぼうだな」 「てへっ」  と、もう一杯。  夫にとって、スマホにおさまったベランダのきゅうりは、目の前の枝豆と同じくらい絶好の酒の肴に違いなかった。    ところがその翌々日、夫は突然出張で沖縄に旅立ったのである。一週間、帰ってこないらしい。 「まじか。本当なのか」  私はその疑問を口に出さずにいられなかった。  早朝に出かけた夫は、サンタクロースよろしく私の枕元に「プレゼント」を置いていったのである。置き手紙とともに。
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