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「……やっぱり俺、止めておくよ。勉強しなきゃいけないしさ、放課後はジャンとリリーと帰っているし……」
もし目の前に膨大な魔力を含む何かが存在し、それを奪う事が出来てしまう状況だったら……自分は冷静でいられるのだろうか。
嫌だ、そんな自分を知りたくない。
それに、魔法能力の低い俺たち二人がその宝を目の前にしたとして、危険が無いとは言い切れない。何もトラップが仕掛けられていないとは限らない。魔物が邪魔をしてくるかもしれない。
「そっか……」と少し寂し気なユーナ。
だけど、俺が降りたらユーナはどうする?
絶対に引き続き宝探しを続けるだろう。
迷子になるかもしれない。
酷いケガを負うかもしれない。
いくら守護魔力を所持していても、それは多分対魔物であって……人間の危害から身を守れるものでもない。
人間の危害からなら、俺でも守れる。
何かあったら絶対に後悔する。何かあってからでは遅い。
「や……やっぱりやるよ。学校内の案内ぐらいしかできないけど、このままじゃお宝が気になって勉強どころじゃないからな」
お宝が気になる、というのは悲しいが本音だ。ユーナの身の安全の為が第一だと言い張れない自分に嫌悪する。
だけどユーナはパッと笑い「ありがとう。すごく助かる」と嬉しそうに言った。
「お宝を見つけられても見つけられなくても、私がこの学校を去る時にはこの魔力の結晶をソルトにあげる。だからお願い、その時までよろしくね」
「それはありがたいな。出来るなら成功報酬として魔力のお裾分けもして欲しいな。知っての通り俺は魔法能力なしの崖っぷち首席なものでね」
「わかった、交渉成立ね」とユーナが微笑む。
俺はクールを装いつつも、魔力の結晶を喉から手が出る程欲しいと思い、ユーナとの交渉に小躍りするぐらい内心喜んだ。
そしていざやると決めてしまうと、学校敷地内という規模の小さいものではあるが、初めての『宝探し』にワクワクし始めてしまった。
だけど、勉強時間が減ってしまって魔力どころの騒ぎじゃなくなるのでは?と不安がよぎる。
ユーナはお宝の件は誰にも話さないで欲しい、と言った。
俺は、宝探しは週末の放課後に限定し、ユーナがひとりで宝探しをしない事を約束してもらった。
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