誘惑

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「ソルト、昨日は学校で何していたの?」  俺が早朝から教室で今日の予習をしていると、リリーが登校してきた。 「あ、ちょっとな。…ネイマール先生からの依頼で、秘密の調べ事」  咄嗟に出た言葉だったが、あながち嘘ではない。 「ふーん、秘密なの」  さほど興味ない、といった表情をしながら自分の鞄の中を漁るリリー。 「これ、はい!」  リリーが弁当箱程の缶を出してきた。  フッと香ばしい香りが漂った。 「もしかして、リリーの手作りか?」  俺は即座に受け取り、缶の蓋を開ける。  缶の中には、星の形をした色とりどりのステンドグラスクッキー。  星の形の生地の真ん中をくり抜き、砕いたキャンディで埋めて焼くのだとか。そのキャンディが高熱で溶け、薄いガラスのように広がり、冷めると固まるという。 「久しぶりだな、これ。美味いよな」  俺が青色系グラスのクッキーを口に放り込む。 「……ん?」  メントールでも入っていたのだろうか。なんか妙に頭と視界が冴えてきた。 「違いわかる!?実はね、このグラスの色はキャンディの色じゃなくて、魔法の色なの!」  リリーは密かに研究していたらしい。料理やお菓子に自分の魔力を与えることが出来ないかを。色々試した結果、自分のお気に入りのお菓子が一番魔力を込めやすいという事がわかったと。 「大した魔力量ではないけどね、色々な魔法が込められているのよ。これは攻撃魔法増幅、これは回復魔法。これでソルトやジャンを助けることが出来たらなって思って。日頃のお礼だよ」  装飾魔道具や食品による魔力増幅は、別に授業や試験でも禁止されていないのでこういったものはかなりありがたい。 「ありがとう、リリー。ジャンも喜ぶよ」  俺がそう言うと「にひひ」とリリーが笑った。  ふと、背後からの視線が気になり後ろを振り向いた。  教室の奥にいるユーナが冷ややかな目で俺を見つめ、目が合うとすぐに逸らし、席に着いた。  俺があの秘密をリリーに話さないか、監視していた?  心外だな。昨日の今日でペラペラしゃべる奴と思われているのだろうか。  俺は折角だからと、記憶力向上の魔法が効いている間にと予習の続きを始めた。
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