誘惑

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 放課後ユーナは特に俺と話すことなく、すぐに女子寮へ帰っていった。  気分でも悪くなったのだろうか。  やはり秘密を共有しあう仲間だからか、ちょっと気になる。  ユーナに限らず今日このクラスの生徒は部活等には参加せず、自宅で療養しろとの事だ。ケアしてもらったとはいえ、記憶を消したわけではないのでショックは残っているだろうと。  しかし俺とリリーは、別のクラスのジャンの下校を教室で待つことにした。  俺はその間勉強でもしようと思ったが、ふとあちこちに残ったが気になり、それを拭き取る作業を始めた。 「それにしてもびっくりしたな。リリーは大丈夫だったか?近くにいたのか?」  椅子に座って黙ったままのリリーに声をかける。 「……やっと心配してくれたのね」ぽつり、と呟く。 「え?」  その声のトーンにギクッとする。まるで恨みでもあるかのような、低い声。 「ユーナ、だっけ?昨日はあの子と一緒だったの?」  ゆらり、とリリーが席を立つ。 「え、あ、うん。まぁ…たまたま」  隠した方がいいような気がしたが、幼馴染に嘘はつきたくない。 「知らなかった…。ソルトが他の女の子に興味があったなんて」  ゆっくり、低い声で無表情のまま近寄って来る。 「リリー?そんな興味なんて……」ない、とは言えないな…と考えていると、突然リリーが俺の胸に飛び込み、ガシッと凄い力で抱きついてきた。 「うわっ、たっ、たっ、た…!」  ドターン!  俺達ふたりは勢い余って床に転倒する。 「リリーっ…!ごめん、支えきれなかった」と起き上がろうとする俺に馬乗りになるリリー。  リリーが俺を見下ろしているためか、表情が恍惚としているように見える。  その表情に気味悪さを感じ、ゾクッとした。
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