誘惑

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 リリーは「ソルト…」と俺の名を呟きながら両手で俺の両肩を抑えこむ。  震える手。ゆっくり迫って来るリリーの上半身。  ええぇっ!!!これってもしかして、キスされるやつ!?  いや、待って!俺、リリーとそういう関係になるつもりは……!  抵抗しようと顔を背け、リリーの身体をどけようとするが何故か力が入らない。  ―――ぽたっ…と俺の頬に何かが落ちた。 「ソルト…、ソルト…」  頬を紅潮させ、口角を上げながらも悲しそうな表情のリリーの瞳から落ちる大粒の涙。  これは…一体どういう涙なのだ?  震える冷たい手で顔を無理やり正面に向けられ、唇が触れようとしたその時……、 「何をやっているんだ!」急にジャンの声がした。  駆けつけたジャンがリリーを両脇で抱きかかえ、俺から引き離した。 「「ジャン…!」」  俺はジャンの姿を見てホッとしたが、リリーはそうではなかった。  ジャンを呆然と見つめ、今度は起き上がる俺を無言のまま青白い顔で見る。 「嫌ぁぁぁぁぁぁっっ!!!」突然頭をかかえ、泣き叫ぶリリー。  ジャンはすぐにリリーを抱きしめ「一体何があったんだ!?」と俺に向かって叫ぶ。 「俺だって訳がわからないよ!」  そうだ、リリーが俺に迫る理由なんて考えられない。  俺はリリーに対して昔から家族のような感情で接していたし、リリーも同様だと思っていた。
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