俺が筋肉を裏切る！

俺は筋トレをしたくない

「筋肉は裏切らないが、俺が筋肉を裏切る！」
家の中で酔っ払って陽気に喚く男がいる。夫だ。

薄毛を気にし始めている夫が　"オキシトシンが分泌されることにより毛が生える" という情報に食いついた。しかしそれはスキンシップにより分泌される。そのためにはテストステロンがないと妻とのスキンシップになかなか至れないのだが、アラフィフの夫は既にテストステロンが少なくなりつつある自覚があるようだった。

「オキシトシンの前にテストステロンだ！」
「テストステロンには筋トレだ！」
「筋肉は裏切らない！」

と、なにやら気合いを入れ出したが、３日もたたないうちにもうやる気を失っていた。

「筋トレじゃない手段、なんかない？」
「頭皮にある酵素がテストステロンと反応してできる物質が悪さするんだよね？だったらさ、酵素が失活したらええやん？酵素ってタンパク質だよね？頭皮を熱ーくしたらええんちゃう？」
「熱いタオルのっける？それともサウナとか？」
「知らんけどさ。ただ、空気が熱いのと水が熱いのとではなんか熱の伝わり方が違うよね？その辺どうなん？」
「さすがに体温以上にはならんのとちゃうか？」
「じゃあさ、酵素の量を上回る量のテストステロンを直接ふりかけたらよくね？何事も量で勝負だ」
「いや…それがダメだから、世の中の男達が全力で薬開発してるんじゃね？」
「そういや、育毛剤開発担当、全員…」

酔ってるときの会話は阿保である。妻はうっかり滑らせそうになった口をあわててつぐみ、昔在籍していた製薬会社の面々を頭に浮かべた。

何かを察した夫が、話題を変える。
「◯ーチンは禿げてるが、自衛隊の偉い人たちはみんなフサフサだ！これが何を意味してるかわかるか？」
わからんよ。知るかよ。
「平和主義は禿げない！！」
全くわからないよ。

「平和を愛すれば、禿げない！」
と勝手な持論を述べ、
「えらくなんかなりたくない〜」
とウゴウゴルーガのエンディングテーマを歌いながら幸せそうに寝てしまった。

いやいや、自衛隊員、みんな筋肉すごいやろ…
ストレス耐性の有無じゃない？などとおもったりする。ストレスに強い人しか自衛隊で登り詰められないでしょ。