24人が本棚に入れています
本棚に追加
都内の一角にあるマンション、その一室ーーー。
ソファーの上に仰向けになって、吉野は何の変哲もない天井を眺め続けていた。
どのくらいの時間をこうしていただろう。開けてないカーテンから薄っすら陽の光が入って来てはいるが、部屋全体を明るくするには頼りない。
机の上には、開けられた封筒と中身の書類。そして、写真が一枚。それを手に取り、見つめる。
その写真の中では、二人の男女が笑い合っていた。一人は自分自身…そして、年齢が離れた白髪交じりの初老の男性が、自分の頭を撫でてくれている。
再び天井に目を戻す吉野。その時、玄関のチャイムが鳴った。ちょうど目先にある防犯カメラに、見慣れた人物が映っている。
「開いてまーす」
玄関に向かってそう叫ぶと、少ししてから出雲が現れた。
「何やってんスカ…」
リビングの入口に立つ出雲の表情は、部屋が薄暗くてハッキリとは見えないが、彼が怒っている事は簡単に想像がついた。
「何で会議に来なかったんすか」
「体調不良でーす」
「スーツ姿でソファーで寝てる人がですか?」
「やーん、どこ見てるんですかぁ?」
わざとらしくカッターシャツをつまみ、鎖骨あたりを見せる吉野。しかし、出雲は見るどころか、投げ捨てられている上着を拾い、シワを伸ばしている。どうやら、誘惑は効かないようだ。自分の安直な作戦が見事に失敗に終わり、苦笑しながらため息をつく。
最初のコメントを投稿しよう!