孤独

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 鬼越の顔が赤くなる。それを見て、気良は息が止まる心境になった。何故なら、出雲の状況と事件の進捗具合を逐一、吉野に報告してしまっているのは自分だからだ。  吉野の皮肉も、逆を言えば気良の意見として捉えられる。 「それは、俺へのあてつけかな?警察官が狙われて、左翼の可能性があり、俺が責任者として動いているのだけどね。」  鬼越は、警備課の中で右翼・左翼対策係に所属している。それに対して、吉野は語尾を伸ばしながら返した。 「あてつけじゃないですよ~。事実を言っただけですぅ」  気良は鬼越の機嫌を心配し始める。鬼越も我慢しているのか、声を低めて反論した。 「捜査本部も遊んでいる訳じゃない。あの事件で使われた爆弾のタイプは突き止めた。何年か前に、という過激派が製造していた爆弾に類似していた。さっそく過去に遡って、活動家の消息を追い始めたとこだ。」  吉野の表情がわずかに動いた。 「命のゆりかご…昔、私の先輩がその活動家を追っている時に殺されました。かなり派手に活動していた一派ですね。」 「そうだ…ちなみに、当時警備課の右翼・左翼対策係で課長をしていたのが、厳教伊織。裏で何か、とてつもないものが動いている気がする…だから、出雲の行動は目障りなんだ。」  吉野は皮肉な笑いを浮かべた。 「出雲さんの気持ちも分かっていただけら、と思うのですが」  鬼越の言葉に気良が割り込む。 「私も同僚として、出雲さんが優秀な刑事である事は知ってます。しかし、今回ばかりは自重して欲しいんです!出雲さんの心情は痛い程理解できますが、あくまで捜査に私情は禁物です。」  鬼越が言葉を継ぐ。 「少し出たが、君も以前上司を失った。勝手に捜査をして、犯人を半殺しにしたとか…覚えがあるだろう?あの時の孤独感とか、経験者として教えて上げたらどうだ。」  吉野の周りの空気が、音を立てて凍ったようだった。気良は背筋に嫌な寒気を感じた。吉野が瞬きもせずに、鬼越を見つめる。鋼鉄も貫き通すような、恐ろしい目だった。  気良がそろそろと身を引く。吉野は鬼越に気持ちが悪い程、優しい声で言った。
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