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近隣の住民の野次馬が、現場封鎖された内部で忙しなく動く警官たちを眺めている。その現場の傍らに停車している覆面パトカー、と佇む二人の刑事。
「ホントに…勘弁してください…」
懇願するように訴えた出雲。力ない声は周囲の喧騒に掻き消されそうで、目の前の吉野に届くかどうかだ。
「明らかに過剰防衛っすよ?」
こんなやり取りを今までに何回しただろうか。怒りはあるのに、まるで他人事のよう。
上司は部下を正しく導くもの…と思うが、目の前の可憐な女性が、正しく導かれようとした事が一度もない。
あるべき上司としていたいが、そう出来ない事や自分の能力不足に嫌気がする。そもそも、初めて責任者として就くには、悪過ぎる環境だ。
大卒で入社した出雲より、高卒で入社した吉野の方がやや年上で勤務年数でも先輩になる。
「仕事も終わったんでぇ、帰っていいですか?」
出雲の悩みもつゆ知らず、伸びをしながらやり切った表情で言う吉野。
この彼女が、容姿と相反してあまりに好戦的。犯人を容易に制圧出来る技術があるが、刑務所より病院にまず運ばれた被疑者が何人いる事だろうか。
その格闘センスと過剰な執行が絶妙なバランスを取り、今も尚警察を辞めさせられず、刑事課の一番下…腫れ物として扱われ、出雲に押し付けられている。
「はい、始末書ー」
「えーッ?!」
毎回言い渡す始末書にこの反応、頭の中に消しゴムでもあるのだろうか。
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