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吉野の返答に出雲の頬が熱くなる。言い返す間もなく吉野が続けた。
「そういう事じゃないですか。俺じゃなかったらお前なんてクビか最悪射殺、それが嫌なら言う事に素直に従え…そうでしょ?別に構いませんよ、私は非人間ですから。」
非人間、よく吉野がそう称する。人間として持つ感情、感覚などと無関係…自分は真っ当な人間と違い大切なものが欠けている、という皮肉らしい。
覆面パトカーにより掛かり、視線を上目遣いにギラつかせながら出雲に迫る。
「そんな生易しい事を言ってる暇はありませんよ?この瞬間にも」
そう言うと吉野は出雲の襟を素早く掴むと同時に、足首を蹴り払い押し倒した。身体を起こそうとする出雲の眼前に、警棒を突き付ける。
「これで、一回死にましたよ?」
警棒越しに見る吉野の瞳は、色彩のない真っ暗なものだった。まさに何ら感情を抱いてない…非人間と言うには似つかわしい様子。
突然の出来事に思考が追い付かず唖然とする出雲に満足したのか、警棒をしまう吉野。
「出雲さんはあれですね?肩に力が入り過ぎ、ですかね?」
そう言った吉野の瞳には先程までの深淵はなかったが、それでもその余韻は出雲の胸中にとどまっている。
「…全然笑えない」
吉野の思わぬ行動に血の気が引いてゆくのがわかる。
「笑ってください?それぐらい楽に考えて…私が邪魔なら撃ってください。非人間に価値なんてないんですから」
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