非人間

5/10
前へ
/333ページ
次へ
 吉野の返答に出雲の頬が熱くなる。言い返す間もなく吉野が続けた。 「そういう事じゃないですか。俺じゃなかったらお前なんてクビか最悪射殺、それが嫌なら言う事に素直に従え…そうでしょ?別に構いませんよ、私はですから。」  非人間(ひにんげん)、よく吉野がそう称する。人間として持つ感情、感覚などと無関係…自分は真っ当な人間と違い大切なものが欠けている、という皮肉らしい。  覆面パトカーにより掛かり、視線を上目遣いにギラつかせながら出雲に迫る。 「そんな生易しい事を言ってる暇はありませんよ?この瞬間にも」  そう言うと吉野は出雲の襟を素早く掴むと同時に、足首を蹴り払い押し倒した。身体を起こそうとする出雲の眼前に、警棒を突き付ける。 「これで、一回死にましたよ?」  警棒越しに見る吉野の瞳は、色彩のない真っ暗なものだった。まさに何ら感情を抱いてない…非人間と言うには似つかわしい様子。  突然の出来事に思考が追い付かず唖然とする出雲に満足したのか、警棒をしまう吉野。 「出雲さんはあれですね?肩に力が入り過ぎ、ですかね?」  そう言った吉野の瞳には先程までの深淵はなかったが、それでもその余韻は出雲の胸中にとどまっている。 「…全然笑えない」  吉野の思わぬ行動に血の気が引いてゆくのがわかる。 「笑ってください?それぐらい楽に考えて…私が邪魔なら撃ってください。非人間に価値なんてないんですから」
/333ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加