落花

1/1
前へ
/3ページ
次へ

落花

 廻り巡る季節のなか。    私とあなたは木陰で休んでいる。  久しぶりのあなたとの、ゆっくりした時間。存分に甘えさせて貰おうではないか。 『なでなでしてよ』と。  あなたにねだってみたりする。 「甘えん坊さんだな」  そんな事を言いながらも、あなたは撫でてくれる。  柔らかな手で、「愛してる」の優しい言葉も忘れずに、目一杯注いでくれた。私だけの色と愛を丁寧に。  ふと、撫でる手が止まった。  不思議に思ってあなたを見上げる。  目が合う。 『どうしたの?』 「あ、いや。随分と黒の似合う女の子になったなって。感慨深いものだよ、本当。 まったく困っちゃうぐらい僕好みだよ」 ..うぅー。あなたという人は.... 『性癖で出ちゃってるんじゃない?』 「ギリ、セーフでしょ」  ふっふっふっ。  あなたは穏やかな笑顔で笑い出す。  とてもバカらしくなって、私もつられて笑う。  あぁ、堪らなく大好きだ。  この時間が、あなたが。  愛をずっと知ることが出来る。ずっとあなたと一緒なら絶対に。 ──そんな時だった。それまで心地良かった風は、急にざらつき荒くなる。  季節の変わり目。  私の気分は一気に悪くなる。怖くなってくる。    嫌だ嫌だ。  次の季節なんかいらない。  私は今のままが良いのに。  どうしようもなく。無性にあなたの胸に飛び込みたくなった。 『..置いてきぼりにしないよね?』  思わず口から漏れた。弱音は吐かないつもりだったんだけどな..。 「大丈夫」  あなたは強く抱き締めてくれた。  つくづくずるい人。私はあなたの胸の中にすがり、一涙を静かに落とす。 「安心してよ。置いてきぼりなんかしないさ。 ただ、次の季節には君は連れていけないだけだから。ここでちょっと、待っていて欲しいんだ。 絶対に、次の季節には迎えに来るから、約束。君の花言葉に誓う。決して滅びることのない愛、に。」  それは魔法の言葉のように、私の中に溶け込んでいく。 『決して滅びることのない愛、かぁ。ふふ。ありがと、もう私大丈夫みたい』  結局、最後まで駄々を捏ねちゃった。  格好悪いけど、仕方ない。  始めから、木陰で休もうなんて言ったのは、ただの口実だったもの。あなたも承知の上でしょ。  私はあなたに向き直って、ごつんとおでこをぶつけ。 『いいこと。絶対、絶対、ぜーんったい! 私以外の奴らに目移りなんかするなよ!』  ふぅ、言ってやった。これで本当の最後の我が儘。 「あーなるほど。それが僕と離れたくなかった、一番の理由なんだ」 『うるさいなぁー』 「照れ屋だね」 『そ、そうですよー! だって、だって、あなたが』  一息置いて、あなたの口元へそっと。 『愛してるから』  触れた唇にそう、私とあなたはなぞった。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加