愛になるから

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 翌日秀才くんが学校に向かうともうエースちゃんが朝練をしていた。その姿をいつも通りに眺めてから秀才くんは教室のほうに向かう。だけどこんな時には度々サッカーボールが秀才くんの前に転がる。 「おはよー。今日も登校時間ギリギリじゃん」  時間的にはもう誰もが登校している頃。しかし、秀才くんが朝に弱い訳じゃない。 「だから、僕は教室に一番に現れる優等生を演じたくないんだって」  これは良く話していることらしい。  そしてボールを秀才くん目掛けてロストするのもエースちゃんの策略による。二人はこうして良く話をしてるのだ。  今日も校舎の一番高いところに昨日の瞳が有った。暫く二人を監視すると、パタパタと教室が騒がしくなる。 「ヤバ、練習時間終わりだ」 「やーい、サボってやんの」 「教室に戻るから待って」  お喋りしている間に時間が過ぎて、もう授業も近くなるとエースちゃんが気付いて、秀才くんが一言冗談を話す。  だけどエースちゃんは気にもしてないのか、先生に呼ばれて向かいながらも振り返って一緒に戻ろうとのことを言う。  秀才くんも元々そのつもりだったみたいに話していた場所から一歩も動かない。これも普段の風景だ。 「今日は近所の公園で練習に付き合ってよ」 「運動か、得意じゃないんだよね」 「パス出し程度は運動とは言わない!」  階段を登ってるときだって二人は会話が無くなることはない。  運動苦手な秀才くんがスポーツ万能のエースちゃんに言われて肩を落とす。もちろんエースちゃんは軽い足取りで教室に辿り着いた。  すると、その瞬間にエースちゃんの表情から笑顔が消える。 「どうかしたの?」  教室のドアのところで立ち止まっているエースちゃんを不思議に思って秀才くんが聞き横に着く。  クラスのみんなが二人を見てにやついているのがわかる。そして秀才くんは教室を見渡す。エースちゃんが戸惑った理由は黒板に有った。  黒板には二人の名前がハートマークを散りばめられて描かれている。そこには夫婦という文字まで有る。  秀才くんはエースちゃんの横を通りすぎて黒板消しを手に取る。怒って黒板に描かれた文字を消す、ことはない。黒板消しを手にちょっと考えていた。 「昨日の帰りも一緒だったし、さっきもずっと熱く話してただろー?」  それはいつも二人をおちょくっているクラスの厄介者。 「そうか、他のみんなはどう思う?」  腕を組んで片手に黒板消しを持っている秀才くんは振り返る。そして横にはエースちゃんも並んだ。  当然クラスはざわつく。昨日やさっきの事実も大抵の人は知っている。だから嘘ばかりのおちょくりでもないと思う。それでもこれはいじめになりそう。クラスの意見はまとまらない。 「困らないよ」  秀才くんは黒板の前からみんなを見ていたが、横から一番の賛同意見が有る。だから頷いた。 「じゃあ、一言伝えておきたい」  秀才くんは黒板消しを置いてから、覚悟を決めた顔をしてもう一度みんなの方を向く。 「僕と彼女は付き合ってる。まだ夫婦じゃないけど、将来はそうなりたいと思ってるんだ。別にこんなことを言われても構わないよ」  コンコンと黒板を叩きながらの静かな言葉。だけど、それはあまりにもな告白だった。  教室は急に騒がしくなり、近付いていた先生が驚いて到着してもザワザワとしているのは続いている。 「あんなにハッキリ言うとはねー」  暗くなる時間にサッカーボールの転がる音と一緒にエースちゃんがあの宣言のことを話してる。 「だって、前に話し合ったじゃないか。誰かに聞かれたら当然の様に明かそうって」  秀才くんがけられたボールを返す。言葉と一緒に。 「そうだけど、結婚とかそんなことまで言うとは思わなかった」 「ダメだったかな? 一応僕の覚悟を示したつもりなんだけど」  ちょっと今日の秀才くんはエースちゃんを真っ直ぐにみている時間がちょっとだけ多い。それは告白を言えた自信が影響しているのだろう。 「驚いただけ。嬉しかったよ!」  するとエースちゃんはそれまでより強くボールを蹴る。運動音痴には怖いボール。秀才くんは避けてしまった。  それに文句を言うこともなく、予想していたみたいにエースちゃんはアハハハッとお腹を抱えて笑う。 「危ないな。僕がケガをしてたら明日の試合の応援が出来ないじゃないか」 「そっか忘れてた。応援ヨロシクね!」  ボールを取って戻った秀才くんからの文句が有るけどエースちゃんはずっと楽しそうに笑っていた。
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