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目の前の茶碗は夫婦である。冗談ではない。どちらか一方を使えば片方も食卓に並び、使用後は同じシンクで水に浸かって洗われる。まさしく夫婦なのだ。
「当たり前じゃン、夫婦茶碗なんだかラ」
「そんなことないヨ。ほラ、夫婦って本当は赤の他人が愛を育むために一緒になるでしょウ?」
「まア、愛というより次世代に遺伝子を――」
「情緒がないんだかラ」
赤の他人が心を決めて夫婦になる。しいては家族というひとつのコミュニティをつくる。でも夫婦茶碗はちがう。生み出されたときから二つは夫婦なのだ。
「なるほどネ」
「生まれたときから夫婦っテ、ずうっと一緒ってどんな感じかナ。一方が欠けたら一緒にしまい込まれたリ、捨ててしまうこと多いって聞くワ」
「ははン、僕の愛が足りないって嫌味かイ」
「……羨ましいノ」
「羨ましいだっテ?」
そうよ、だって私たちは一方が欠けてもきっと――バキッ「ゔ、あっ」
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