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1.憧れとお節介
さわさわと笹の葉擦れの音に包まれた座敷に、四人の女性が座っている。
一人は座敷の主である紫倉夫人、残りは客として招かれた河野家の娘と灯その母と祖母である。
囲炉裏から風炉に変えたばかりの初夏の茶席だ。
床の間には菖蒲が活けられ、少し開けられたガラス窓からはふわりと軽やかな風が通ってくる。
「どうぞ、足を崩してお楽になさって」
亭主の紫倉夫人の言葉に、灯は酸っぱいものでも噛んだような顔をした。
女学生らしく大きなリボンを髪に飾り、今日は茶席に合わせて少し大人っぽい紫色の振袖を来ている。ぱっちりと大きな瞳と柔らかそうにふっくらした頬は、どこか雛鳥を思わせる愛嬌があった。
「い、いえ、大丈夫です」
「これ、灯。お言葉に甘えておきなさい」
おかしな顔をしている娘を祖母がたしなめた。
「痺れすぎて動けないのね」
ほほ、と気楽に笑うのは母親の河野秋乃である。紫倉夫人とは旧知の仲だ。
「いえ、そ、そんなことは。ほら、大丈夫……ああっ!」
腰を浮かそうとした灯は痺れた足の痛みに、悲鳴をあげて母の肩を掴んで倒れ込んだ。その拍子に先刻配られたばかりの母の薯蕷饅頭が、灯の肘で潰れてしまった。
「ああ、お饅頭が……」
慌てて起き上がろうとしても、自分の着物の袖を尻や足で踏んでしまい、さらに立てない。
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