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なんだか勝気な人だと灯は思ったが、それが返って興味をそそった。
「佐太郎さん。お里はどちら?」
灯の質問に、佐太郎は眉をしかめた。
「小田原です」
「あら、スミは三浦なのよ。同じ方面ね」
灯がスミの顔を見上げて微笑んだ。
「そうですか」
「あなた、父が連れてきたと言ったけれど、どうしてうちへ?」
すると佐太郎は、眉をしかめ、いかにも嫌そうな顔をして問うた。
「このおしゃべりは続けなきゃいけませんか」
豊作が慌てて顔を真っ赤にする。
「お前、お嬢様になんて口の聞き方を」
「料理人なら粉の始末が先かと思いまして」
「心がけは悪くはないが、礼儀ってものがあるだろう。お嬢様、こいつにはしっかり言って聞かせますんで」
佐太郎の横で豊作が体を縮める。佐太郎はまだ不機嫌そうな顔をしているので、灯は、嫌われてしまったようだ、と悟った。
「私もチョビ助に、厨房に入ってはダメよと叱っておきます。それより、お水をくださる?」
スミが「私が」と申し出て、水瓶から柄杓で掬って茶碗に移し、小さな盆に載せて持ってきた。灯は腕が露わになるのも構わず、頭を反らせてぐっと飲み干す。冷たい水が喉を通ると、急に着物が窮屈に感じられた。
「着替えてくるわ。夕食は何?」
「いろいろと旬のものが届いておりますよ。お嬢様の好きな筍も、山の方から取り寄せました」
「ほんと? 楽しみにしてる」
灯の笑顔に応えるように、豊作は常にへの字の口の端を、わずかに上向きにした。
佐太郎は、灯と豊作のやりとりなど聞こえもしない様子で、倒れた粉袋の片づけをしている。こぼれた小麦粉は箒で丁寧に掃き集め、塵取りを持って勝手口から出て行った。
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