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「戻るぞ。ここ一ヶ月、いらない気苦労をしてたって分かったら、急に疲れた……お前のこと探してて、ポケットの石を頼りに来てみたら、あんなことになってたしよ……」
背中を向けて歩き出そうとする夜人くんを、私は呼び止める。
「探してたって……? 何の用事で?」
夜人くんの背中がギクリとはねた。
固まったままの夜人くんに、私は「夜人くん?」と呼びかける。
夜人くんは右ポケットに手を入れた。そのまま動かない。
急かしたらよくないよね。
私はじっと、夜人くんの言葉を待つ。
しばらく動かなかった夜人くんの右手が、急にポケットから出てきた。そのまま左ポケットに突っ込まれる。
「ひゃっ」
私の右ポケットがビクンと波打った。私は、そっとポケットの中身を取り出してみる。
手のひらサイズで、真っ白な、甘いもの。
木々の間から柔らかい陽の光が入ってきて、私は今日が、三月十四日であることを思い出した。
「……ありがとう」
特々こい々ミルクキャンディ。私の一番好きなもの。
私は、繊細な手つきで、宝物を左ポケットに入れた。
……あれ?
私の右ポケットが、まだ膨らんでいることに気がつく。
キャンディの他に、ポケットに入っているものって……
私の胸が、トクトクと波打っている。
不思議なポケットの膨らみは、ちょうど、握り拳一個分。
……結局、夜人くんが、私に触れられるのを避けた理由は分からないけれど。
これは、はっきり分かる。私の中の熱が教えてくれている。
私は、夜人くんと、一緒にいたいんだ。
私は魔法のポケットに手を入れる。そこにあった大きな手に、私の手を重ねた。
大きな手がビクリと動く。そこから、どちらからともなく、指を互い違いに絡め合う。
私達は、不思議なポケットに手を入れたまま、ゆっくりと歩き始める。
半歩前を歩く夜人くんの表情は見えないけれど、頬の赤みが耳たぶまで広がっていた。
私のドキドキが、ポケットの中の手を通して、夜人くんに流れているだろう。
でも、夜人くんと繋がっていられるのなら、こんな恥ずかしさは、いくらでも味わおうと思った。
教室に戻るまでの間、誰にもみえない秘密の場所で、私達の手はお互いの熱を伝えあっていた。
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