特々こい々ミルクキャンディ

2/9
前へ
/9ページ
次へ
 夜人くん達の会話に人一倍反応したのは二人。一人は私、もう一人は野薔薇(のばら)さん。  巻き髪に、短い丈のスカートの野薔薇さんは、夜人くんに熱っぽい視線を送っている。ストーブの真ん中を陣取っているのも彼女だ。  休み時間に教室にいない私は、クラスの空気を把握できずにいる。そんな私にでも「このクラスのボスは野薔薇さんだ」って分かる。野薔薇さんの後ろにいる長い髪の女子――佐薙(さたい)さんは、ずっと俯いている。  黒板の前で繰り広げられる会話に、私が反応した理由は、夜人くんがポケットに入れた白いシュシュだ。  あのシュシュって、もしかして私の……⁉︎  どこで落としていたんだろう……?  私は慌てて右ポケットに手を入れた。 「わっ」 「きゃっ」  私と夜人くんの手が、勢いよく、同時にポケットから出た。  クラスの皆の視線は夜人くんに集まっている。もちろん、私の視線もだ。  さっき裏庭にいた時に、右ポケットに入れたはずのシュシュが消えていた。代わりに、誰かの肌の感触がしたんだ。  夜人くんは私に目線を向けた。驚いていた顔が真顔になって、私のところにツカツカとやってくる。 「ちょっと来い」  夜人くんに促されて、私達は教室を出た。そんな私達にクラスの——特に野薔薇さんの視線が突き刺さった。  *  私達は人気(ひとけ)のない渡り廊下にたどり着いた。前を歩いていた夜人くんが、くるりと振り向いた。 「この髪留め、お前の?」  夜人くんの手にある白いシュシュは、間違いなく私のもの。私はコクリと頷いた。それを見た夜人くんは、額に手を当てる。 「いや、まさかな……」  信じられないのは私も同じだ。でも、さっきポケットの中で感じた、肌の感触を説明するには、これしかない。 「私、ハンカチを入れてみるね」  白いレースのハンカチを左ポケットから取り出した私は、恐る恐る、右ポケットに移してみる。  左ポケットに手を入れた夜人くんの眉が、ピクリと動いた。そして、ポケットの中から、さっき私が入れたばかりのハンカチを取り出した。  目を見合わせた私達は、嘘みたいなお話を信じるしかなくなった。  私と夜人くんのポケットが、繋がっているってことを。 「とにかく、お互いに、このポケットは使わないようにするぞ」 「う、うん」  決まり事を確認した夜人くんは、スタスタと教室に戻ってしまう。  渡り廊下に取り残された私に、冷たい風の鞭が打たれる。両手をこすり合わせても、全然温まってくれなかった。  ……最後に、夜人くんと手を繋いだのって、いつだったっけ。  それを考えだしたら、余計に手が白くなって、凍ってしまった。だから私は、そそくさと校舎に逃げ込んだ。  
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加