0人が本棚に入れています
本棚に追加
夜人くん達の会話に人一倍反応したのは二人。一人は私、もう一人は野薔薇さん。
巻き髪に、短い丈のスカートの野薔薇さんは、夜人くんに熱っぽい視線を送っている。ストーブの真ん中を陣取っているのも彼女だ。
休み時間に教室にいない私は、クラスの空気を把握できずにいる。そんな私にでも「このクラスのボスは野薔薇さんだ」って分かる。野薔薇さんの後ろにいる長い髪の女子――佐薙さんは、ずっと俯いている。
黒板の前で繰り広げられる会話に、私が反応した理由は、夜人くんがポケットに入れた白いシュシュだ。
あのシュシュって、もしかして私の……⁉︎
どこで落としていたんだろう……?
私は慌てて右ポケットに手を入れた。
「わっ」
「きゃっ」
私と夜人くんの手が、勢いよく、同時にポケットから出た。
クラスの皆の視線は夜人くんに集まっている。もちろん、私の視線もだ。
さっき裏庭にいた時に、右ポケットに入れたはずのシュシュが消えていた。代わりに、誰かの肌の感触がしたんだ。
夜人くんは私に目線を向けた。驚いていた顔が真顔になって、私のところにツカツカとやってくる。
「ちょっと来い」
夜人くんに促されて、私達は教室を出た。そんな私達にクラスの——特に野薔薇さんの視線が突き刺さった。
*
私達は人気のない渡り廊下にたどり着いた。前を歩いていた夜人くんが、くるりと振り向いた。
「この髪留め、お前の?」
夜人くんの手にある白いシュシュは、間違いなく私のもの。私はコクリと頷いた。それを見た夜人くんは、額に手を当てる。
「いや、まさかな……」
信じられないのは私も同じだ。でも、さっきポケットの中で感じた、肌の感触を説明するには、これしかない。
「私、ハンカチを入れてみるね」
白いレースのハンカチを左ポケットから取り出した私は、恐る恐る、右ポケットに移してみる。
左ポケットに手を入れた夜人くんの眉が、ピクリと動いた。そして、ポケットの中から、さっき私が入れたばかりのハンカチを取り出した。
目を見合わせた私達は、嘘みたいなお話を信じるしかなくなった。
私と夜人くんのポケットが、繋がっているってことを。
「とにかく、お互いに、このポケットは使わないようにするぞ」
「う、うん」
決まり事を確認した夜人くんは、スタスタと教室に戻ってしまう。
渡り廊下に取り残された私に、冷たい風の鞭が打たれる。両手をこすり合わせても、全然温まってくれなかった。
……最後に、夜人くんと手を繋いだのって、いつだったっけ。
それを考えだしたら、余計に手が白くなって、凍ってしまった。だから私は、そそくさと校舎に逃げ込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!