特々こい々ミルクキャンディ

3/9
前へ
/9ページ
次へ
 (うるし)夜人くんと私は幼馴染だ。小さい頃はよく公園で遊んでいたし、登下校も一緒だった。  中学生になったら登下校は別々になったけど、仲が悪くなったわけではなかった。毎年、バレンタインのチョコも渡していた。  ただ、夜人くんは、私が触れるのを嫌がるようになった。思えば、この時点で、夜人くんの本心に気がつくべきだった。  私達の関係が一気にぎこちなくなったのは、ついこの間の二月十四日。 『夜人くん、これ、食べてくれると嬉しいな』  その日の朝、私は手作りのチョコタルトを渡した。外の風はピリピリと冷たいはずなのに、私の頬は熱かった。  夜人くんは、手の甲で口元をおさえる。私がチョコを渡す時、毎年この仕草をする。 『……ありがとう』  ぎこちない手つきで、白いラッピングのチョコを受け取ってくれる。目立たない私と、優秀な見た目と成績を兼ね備えた夜人くんは、学校での距離は開いていた。けれど、こうして私がチョコを渡して、夜人くんは受け取ってくれる。そう思っていた。 『ねえ、これ、もらってくれる?』  夕暮れの教室で、夜人くんと野薔薇さんがお話ししているのを見てしまった。教室に忘れ物を取りに来た私は、扉の前でピタリと止まる。 『悪い。いらない』 『どうして? 私、夜人くんのこと――』 『甘いの苦手なんだよ。だからもらえない』  夜人くんの声色も、表情も、心の底からの嫌悪を表現していた。  忘れ物を置き去りにして、私は扉から走り去る。  夜人くん、甘いもの苦手だったんだ。  それなのに、毎年毎年、チョコを押し付けちゃったんだ。  引っ込み思案なくせに、夜人くんにだけ甘えて……!  ――その日以来、私は夜人くんを避けるようにした。  そこから関係がぎくしゃくするのは一瞬だった。そして気がついた。  やっぱり夜人くんも、迷惑な私とは早く離れたかったんだって。  *  私と夜人くんの不思議なポケットに気がついてから三日が経った。  数学の先生が口にしている呪文と、扉の隙間から流れてくる風に同時攻撃されていた私は、机の下で両手をこすり合わせていた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加