特々こい々ミルクキャンディ

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「じゃあ、この問題を……雪柳!」  自分の名前に不意打ちを受けた私は、反射的に返事をした。  どどど、どうしよう……!  黒板には奇天烈な図形が書いてある。たぶん、指されているところの角度を求めるんだろうけど……!  ピンチによって全神経が研ぎ澄まされていた。  だから気がついたんだ。  制服の右ポケットが、ほんの少し、ゴソッと動いたことに。  藁にも(すが)る思いでポケットに手を入れる。千切られたノートが入っていた。そこに書かれていた数字。 「64……?」  それを読み上げただけで、私は花丸をもらった。  先生が次の問題に移ったのを確認して、私は胸をなでおろす。そして、窓側にある夜人くんの席を見た。  夜人くんは右手で頬杖をついている。私の席からじゃ、顔は見えない。  左手で制服を——ポケットのあたりをおさえている。筆跡で予想していたことだけど、確信に変わった。  助けてくれたんだ。  この、不思議なポケットは使わないって、約束だったのに。  私のこと、迷惑がっていたはずなのに。……  私は切れ端を丁寧に折り畳んで、筆箱にしまった。  *  それから更に七日が経った。今年は冬が居残りをしていて、体育の授業の後でも肌寒い。  男子は教室で、女子は空き教室で着替えることになっている。 「はーあ。温かいもの飲みたいなー」  野薔薇さんがジャージを脱ぐと、香水と柔軟剤の混ざった香りが鼻をつつく。野薔薇さんの鋭い視線が射抜いたのは、佐薙さんだった。  青い顔の佐柳さんは、まだ着替え終わってもいないのに、小動物のように部屋を出て行った。  私は部屋の角で、細々と着替えを済ませた。ジャージに入れておいた絆創膏を制服に移す。ドジな私には必需品だ。  佐薙さんが慌てた様子で戻ってきた。ペットボトルを野薔薇さんに渡す。 「ちょっとー。私、あんこ苦手だって言ったよね? おしるこじゃなくて、コーンスープにしてよ!」  キンキン声を部屋中に響かせて、野薔薇さんは佐薙さんにペットボトルを投げつけた。ペットボトルが佐薙さんにぶつかった音が、はしっこの私にまで聞こえるくらいの勢いだった。  口をきゅっとつぐんだ佐薙さんは、目尻から雨を流して、再び部屋を去る。 「あいつ、ホント使えないなー」  野薔薇さんの舌打ちを聞いた私は、急いでこの場を後にした。
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