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私は上半身だけを後ろに向けて、何が起きているかを確認する。
木の陰に隠れるようにしゃがんで、ぷるぷると震えている佐薙さん。そんな佐薙さんを、腕を組んで見下ろしているのが、野薔薇さんだ。野薔薇さんの周りを、四人の女子が取り囲んでいる。
「あ、だって、わた、わたし」
「文句あんならハッキリ言えよ! 目ぇ見て話せよ! イラつくな!」
野薔薇さんが地面の草花を踏み潰した。
「ねえ、この根暗が治るにはー、どうしたらいいと思う?」
くるりとターンした野薔薇さんが、周りの女子達に笑いかける。もともとは美人な野薔薇さんだけど、今の微笑みは毒々しい。
「それじゃあー、その無駄に長い髪を切ればいいんじゃない? 前髪なんか、目にかかってるじゃん」
一人の女子がポケットから取り出したものを見て、野薔薇さんの口角が上がる。
「いいねえ」
女子の手にあるもの――ハサミを持った野薔薇さんは、薄ら笑いを携えて、佐薙さんに悠然と近づいていく。
佐薙さんは、お尻を地面につけたまま、引きつった顔で後ずさる。そんな佐薙さんに、女の子達は爆笑を振りかける。
……どうしよう。止めた方がいいかな。
でも、私なんかが口をはさんだところで、また余計なお世話になるだけ……夜人くんに押し付けていた、バレンタインチョコみたいに。
目をそらすために下を向くと、制服のポケットが視界を支配した。
……急に疎遠になった私を、迷惑だと思っていた私を、夜人くんは助けてくれた。
私も、このポケットの力を借りてだけど、夜人くんに絆創膏を渡すことができた。
ぎこちなかった関係を、少しだけなおすことができた。
「引っ込み思案のくせに、ありがた迷惑だけはバラまいていた私」から、一歩進むことができた。
せっかく、このポケットが、私にチャンスをくれたんだから……!
私は両手をポケットに入れて、すうっと深呼吸をする。
手ぶらの両手をポケットから出したのと同時に、私は立ち上がって、言った。
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