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「あの、佐薙さん、嫌がってると思うよ」
私の声を合図に、野薔薇さん達の目線という名の凶器が、私に標的を変えた。
「は? 関係ないでしょ」
女子の一人が、面白くなさそうに舌打ちをする。
髪をかきあげた野薔薇さんが、三歩前に出た。私は生唾を飲み込む。
「私さー、佐薙と同じくらい、あんたも気に入らなかったんだよね」
「ど、どうして……」
よく通る野薔薇さんの声と対照的に、私の声は情けなく震えている。
「いい子ぶってるのがさ。誰もやらないゴミ拾いをする健気なアタシ! って、優等生ぶってるのがキモいし、ウザい」
わざとらしい抑揚をつけた言い方に、周りの女子がケラケラと笑う。
「それに、夜人くんと幼馴染だからって、調子にのってさ。夜人くんの迷惑だって思わないわけ?」
私は唇を噛んだ。か細い息も、白すぎる手も足も震えている。
「そんなにいい子ぶりたいならさ、佐薙のかわりに、あんたの髪を切ってあげる。本当に佐薙を助けたいなら、できるでしょ? いい子ちゃんならさ」
野薔薇さんが、ハサミの刃先を私に向けた。そのまま一歩一歩、じりじりと私に近づいてくる。
私はぎゅっと目を瞑った。
「かすみ!」
私達の間に漂う黒い空気を、一瞬で追い払うような、芯の通った声。
私の背から聞こえてきた声の方を、全員が一斉に見る。
眉間にシワを寄せて立っている人の名前を、私は思わず呼んでしまった。
「夜人くん……!」
夜人くんは私の横を通り過ぎて、野薔薇さんに向かっていく。ハサミを持った手を掴んで、シャープな眉と目尻を吊り上げる。
さっきまでと打って変わって、野薔薇さんの声はしおらしい。目の下を青くして、身体中をカタカタと振動させている。
「あの、これは違くて……」
「何が違うんだ。違わないから、こんなもんを持ってるんだろ」
夜人くんの追及に、野薔薇さんは黙り込んでしまう。
「こういう真似するのが無理なんだよ。もう俺にも、かすみにも関わるな」
手を離した夜人くんは、氷の眼差しで野薔薇さん達を突き出した。
息を呑んだ野薔薇さんが涙を散らして駆けていく。その後ろを取り巻き達が追いかける。
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