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しばらく呆然としていた私だけど、声をかけるべき存在を思い出して、意識を取り戻す。
「佐薙さん、大丈夫?」
地面にお尻をついて呆然としている佐薙さんに、私は手を差し伸べる。
「うん……ごめんなさい」
「制服汚れちゃったよね。私、教室に行けばタオルがあるけど……」
「ジャージに着替えるから大丈夫。ありがとう、雪柳さん」
ペコリと頭を下げた佐薙さんは、パタパタと裏庭を後にした。
佐薙の後ろ姿を見届けた私は、夜人くんに向き直った。
「ありがとう。でも、どうしてここに来てくれたの?」
私が首を傾げると、夜人くんは溜息をついてから、不思議なポケットに手を入れた。
「こんな石ころがあるのなんて、この裏庭ぐらいだろ」
取り出した小石を、ぽいっと地面に放った夜人くんは、目を閉じる。
そっか。私がポケットに手を入れた時、持っていた小石も一緒に中に入っちゃったんだ。
私は腰を折り曲げた。
「ごめんね。ポケットは使わないって約束だったのに。私、また夜人くんに迷惑をかけちゃった」
「迷惑?」
「だって、夜人くんが甘いの嫌いだって知らなくて、チョコを押し付けて」
「何の話だ」
違和感を感じた私は顔を上げる。夜人くんは怪訝な表情を浮かべていた。
「バレンタインの日、野薔薇さんに言ってたでしょ。甘いの苦手だって。だから私、迷惑なものを押し付けてたんだと思って……」
「はあ? あれは野薔薇のチョコを断る口実だよ」
夜人くんは眉を吊り上げて続ける。
「鈍感なお前は知らなかったかもしれないけど、野薔薇の性格の悪さは有名だったし、さっきみたいなことをやってる奴と、仲良くなりたいと思わないだろ。だけど、野薔薇が嫌いってストレートにいうと話が拗れそうだから、甘いものが苦手ってことにしたんだよ」
夜人くんは、ハッと目を見開いた。
「まさか、お前が俺を避け出したのって、これが原因じゃないだろうな」
私は足元を見た。無言の答え合わせを終えた夜人くんは、ドッと肩を落とす。
「なんだよ、焦らせやがって……」
「で、でも、中学の時くらいから、私が触れるの嫌がってたでしょ」
「嫌っていうか、触られるとまずいんだよ、色んな意味で」
「なんでまずいの? 誰かに見られたくないってこと?」
「ここまで言って分かんないなら、何言っても無駄だから訊くな」
手の甲を口元につけた夜人くんは、黒目を横に逃してしまう。
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