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「唯……産まれてきてくれてありがとう」
そのくぐもった少し震える声にハッとした。
そのまま続ける
「美桜、唯を産んでくれてありがとう」
「うん」
「俺、今すごい幸せ……」
「うん……」
「大事にします。美桜と、唯を」
「はい……私も暁人さんを大事にします」
唯を抱きしめる暁人を抱きしめた、というよりは広い背中にしがみつくように腕を回した。
「ふふっワンナイトがこんなことになるなんて」
「俺はワンナイトにするつもりさらさらなかったけど」
「最初から言ってくれればいいのに」
「美桜がこんなに気づかないとは思わないだろ」
「たしかに?」
ふふっと笑っていると、おもむろに暁人が唯をベッドに寝かせて
「唯ごめん、ちょっとそこで見てて。美桜待ってて」
「え、なに?どうしたの?」
スタスタ玄関の方に歩いていくと、何やら後ろ手に隠しながらリビングに戻ってきた。
「ん?なになに??」
サッと暁人の背中から出てきて目の前に差し出されたのは
「花束……?あ、芍薬……」
白い絹のような滑らかな花弁がフリルのように重なり合う満開の芍薬の花がふんだんに束ねられた花束だった。差し出された拍子の微風に乗ってふんわり甘く上品な香りが鼻に届く。
「白い芍薬の花言葉は"幸せな結婚"なんだ。この花に二人を幸せにすることを誓います」
跪いて渡そうとしてきたのを慌てて
「やめてやめて!普通に渡して!はっ…恥ずかしからっ!」
「うん?そう?誰が見てるわけでもないのに」
仕方なさそうに立ち上がって、はい、と渡してくれた。
「あ、ありがとう」
「うん、どういたしまして」
「すごく……キレイだし、すごくいい香り」
「お花屋さんにお花あげるのもどうかなって思ったけど芍薬は結構思い入れある花だから……」
「そう、私も一番好きな花。本当にありがとう。実はお花もらったの初めてかも」
「うん」
うん、とうなづく度の暁人の嬉しそうな笑顔が好き。
神様はここまで見通してたのかな。
保育園に受かっていたら、沖縄最終日にホテルのエントランスにいなければ、廣瀬ビル受付の装花担当をしていなければ、U Flowerという会社に就職しなければ、私の実家が花屋でなかったら…
今この場所に立つことはできなかっただろう。
ものすごい勢いで人生の伏線回収しているみたいな気分になって、脳内でエンドロールが流れ始めた。
キャスト…
もちろん私と廣瀬暁人のダブル主演。
助演は唯。
そしてこれから始まる次作の2では唯が主演で私たち二人が助演になる…
のかもしれない。
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