笑顔が可愛くて

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 「人間……ね」  相談員は深々とため息をひとつ吐いた。 「どうしました?」  通りがかった同僚が彼に話しかけた。 「いや、今のセミなんだけどね。一目惚れしたんだって。人間に」 「珍しい」 「んで、その人に会いたいからって人間に転生した」 「良いんじゃないですか? 同族でこそ愛も届く可能性が出てくるってもんです」 「確かに……」 「まだ何か?」 「あのセミの死に方がね。悲惨なのよ」 「悲惨? ああ、同情すべきってやつ」 「それそれ。羽化直後にいたずらで羽根を折り曲げられて、木から落っこちたところを踏み潰されて殺されたんだよね」 「……絶したわ、想像を。……まさか」 「そう。それをやったのが、その一目惚れの相手。笑顔が可愛くて素敵なんて言ってたけど……」 「うわ……」  同僚はそれ以上何も言わず、相談員もため息をひとつ吐いてその話を終わらせた。
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