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気が付くと良く分からないところにいた。
暗いような明るいような、静かなような煩いような。
これからどうすればいいのかさっぱり分からない。
そう思っていたら、目の前に不意に男の人が現れた。
「ようこそ、来世相談所へ。私が担当の相談員でございます」
「……来世相談所?」
「はい。あなたはつい先ほど現世での勤めを終えられました。ですので、来世をどうするか選択していただく必要がございます。おひとりで選ぶのもなかなか大変なことですから、我々がそのお手伝いをさせていただいているわけでして……」
「……つまり、死んだんですか?」
「平たく言うとそうなります」
相談員はそう言ってのぺっと笑った。
なんというか、とても無機質な笑顔だった。
「来世、どうなさいますか? ご希望等ございますでしょうか」
「希望……と言われましても」
難しい質問だった。
そもそも生まれ変わりなんてものがあることを今知ったと言っても良い。
「なんでも大丈夫ですよ。動物、植物……。動物は哺乳類でも良いですし、魚類、爬虫類、もちろん昆虫も可能です」
相談員の言葉にふと、僕の脳内によぎる姿があった。
青白い月に映える綺麗な黒髪。
大きな目。
半袖から延びる白い腕。
凄く楽しそうな可愛い笑顔。
「……人間は?」
「もちろん。人間も立派な動物ですから」
「では……人間で」
「はい、かしこまりました。人間になる上で、何か留意してほしい点などはございますか?」
「えと、そんな要求までできるんですか?」
「そうですね。あなた様の死に方は、我々の定めるところの、同情を禁じえず、より良い来世に向けた補助をすべき死に方に該当しておりますので」
「……そんなひどい死に方を?」
「現世での憂慮を来世に持ち込むべきではないという原則に従い、内容はお教えすることはできませんが」
「まあ、聞きたくもないです」
「それは良かった。それでご希望はございますか?」
「はい。会いたい人がいます」
その言葉に、相談員さんはすっと目を細めた。
「良ければお伺いしましょうか。こちらの方で加えられる条件があるかもしれません」
「あ、はい。実は忘れられない女性がいまして。名前も知らないしどういう関係なのかも……。ただ、笑顔がとても可愛くて、その……」
「一目惚れをした、と?」
ストレートな相談員さんの表現には、頷くしかなかった。
「……なるほど。それが彼女の中に良い思い出として残っている可能性は高くないと思いますが」
「それでも、僕は彼女を忘れられないんです。もう一度会いたいのです」
「かしこまりました。それでは、来世で巡り合えるよう、私の方でいくつか条件を書き加えておきましょう」
「ありがとうございます!!」
「それでは、このまままっすぐお進みください。それで来世に行けます」
そう言って、相談員さんは一歩左へ動き、先へと促すように手を動かした。
彼女に会える。そう思うだけで胸が高鳴った。少し怖くもある。きっと彼女は覚えていないだろう。それでも、再会できれば可能性は生まれるはずだ。ひとつ息をして、一歩目を踏み出した。
「行ってらっしゃいませ」
相談員さんは深々と一礼をして送り出してくれた。
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