電車の彼女

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 やはり新学期になっても、彼女と同じ車両には乗り合わせなかった。登校時間が変わることはないだろうから、違う車両に乗っているのかもしれない。僕は中山京子が乗る駅になると、車両を移動した。1日目、2日目……10日目………毎日、彼女を探したが見つからない。女子高の最寄り駅で降りる姿を探しても見つけられなかった。  会いたい。謝りたい。もう一度笑顔を見たい。会えない時間が経てば経つほど、彼女に会いたい気持ちが強まっていった。 「このままじゃストーカーみたいになってしまう」  すでにストーカー判定されてしまうかもしれない。今の時点で女子高生たちから物珍しそうに見られている。高校の前で尋ねた方が早い気がした。『ピン留めを落としてたから』という言い訳は半分アウトな気がするが、この際仕方ない。元はといえば僕が全て悪い。  チラチラと視線を送ってくる女子高生の中からは優しそうな子を探す。ショートカットとツインテールの2人組に声をかけた。 「あの……、ちょっと聞いてもいいですか?」 「あ、はい」 心の中でガッツポーズをする。 「中山京子って知ってる?」 「え」 「え」 2人は目を合わせて、手を繋いだ。探るような目が向けられる。首に汗が流れ、息が詰まった。 「僕、京子ちゃんの友達で。あ、友達って言っても電車で話すだけなんだけど。髪留めを落としてたから渡そうと思って。毎日つけてたし、大事なものだと悪いし。探してるかもしれないから」  早口で畳み込むように言い訳を告げた。喉が渇いているのに、背中は汗をかいている。ツインテールの女の子が口を開いた。その腕をショートカットの方が寄りかかる。 「京子ちゃんは……亡くなりました」 「え?」 汗をかいていた程暑かった体が急に冷える。 「一月期の最後に……電車に引かれて。あったでしょう?人身事故で遅れた日が」  2人の女子高生の顔は青ざめ、ショートカットの子の目には涙が浮かんでいる。その表情だけで冗談ではないことが分かった。 「新聞記事にもなったから。ごめんなさい」 彼女たちは足早に去り、僕は1人取り残された。スマートフォンを取り出して検索する。 『女子高生が電車に轢かれ死亡。自殺か』 手は震え、文字は涙で滲み出す。どうしてあんな事を言ってしまったのだろう。瞼を閉じると彼女の笑顔が浮かんでくる。最後に会った時の言葉を、今までの態度を後悔した。これが夢であればいいのに。右手に持っていたピン留めが手のひらに刺さる。その痛みが現実だった。
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