109人が本棚に入れています
本棚に追加
律は最近、通院しない日は、ほぼ毎日顔を出してくれた。
東京から電車賃も安くはないだろうに無理しなくてもいい、と言ったら、
「ここ、楽しいから。まあ、イケメンピアニストでつい最近まで稼いでたし。」
なんて、ピアノの王子様も大人になると少し、
黒い。
武内さんと話をした次の日も、律は来て、ホルンとサックス、特に小田さんの練習に付き合っていた。
今日も、休憩中、律は、小田さんから話しかけられ、楽譜を覗き込みながら、身振りを入れながら話している。
しばらくして小田さんが終わると、ティンパニのところに自分から行き、楽譜を指差して何か話しかけていた。ティンパニの村田君は頷くと、指摘されたフレーズを叩いた。すると律は、
「その方が、音もきちんと止められるし、かっこいい!」
と笑って大声で褒めた。大柄のティンパニの村田君は嬉しそうに、くしゃりと笑顔になった。
律は誰とでもすぐ打ち解ける。人懐っこく、壁を作らない。
私には無い。生徒達と今の距離まで近づくのだって、何年もかかったのに、律は数日で信頼まで得ている。
羨ましい。
律は私に無いものばかり、いっぱい持っている。
忘れてた、
律の隣にいることが、
苦しいってこと。
この苦しみが嫉妬に変わって、
私は、律も自分も嫌いになったこと。
最初のコメントを投稿しよう!