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fine(終わり)
コンクールが迫ってきた。
最近は、練習が終わった後、生徒が音楽室からいなくなってから、律と、武内さんがいる日は三人で、スコアを覗き込んで、ここは低音を出した方がいい、とか、このソロのところはソリストのタイミングで指揮した方がいいなど、話し込むことが毎日のようになっていた。
そして、コンクール二日前。
武内さんは、昨日の吹奏楽連盟が設けてくれたホール練習に合わせて自分の指導する部活を休んだため、今日は来られなかった。
私は、律と二人、コンビニのおにぎり片手に、もう一時間くらい話し込んでしまった。
「ごめん、長くかかって。」
猛暑の中、日陰を探しながら、横に並んだり、前後しながら、駅まで律を送る。このところの毎日の日課。
「コンクールの日の明後日だけど、朝早く集合でしょ。僕、明日、駅のとこにあるホテル泊まるから。」
「えっ、いいよ、そんな。
本番前、ちょっと舞台袖来るのに間に合わせれば、大丈夫だよ。」
「楽器運ぶの、手が多い方がいいでしょ。」
「でも・・・。
でも、ほら、指でも怪我したら、困るでしょ。
律は、ピアニストなんだから。」
「別に、困んないよ。」
「えっ?何?」
ちょうど、日陰が狭くなり、律と前後してしまった。
しばらく、そのまま前後して歩く。
ようやく、駅近くになり高架下で日陰が広くなった。
すると、律は立ち止まって、振り返って私を見て、薄く笑う。
「もう、いいんだよ。」
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