fine(終わり)

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「もう、いいんだよ、怪我しても。」 「何、何言ってるの、」 「もう、嫌なんだよねえ。」 「何?嫌なことって。 だって、留学して、プロデビューして、嫌も何も・・・。 あっ、耳のこと? 大丈夫よ、自分の音だけでしょ? それに、治るでしょ。 ああ、焦ってるの?珍しい、弱気? 大丈夫よ、治るよ。」 思わず律の左腕を摩っていた。 律は私の摩る手を、そっと外し、そのまま握った。 そして、ぐっと、少し引き寄せ、私を見下ろした。 駅へ向かう人、駅から出てきた人が、私達を邪魔そうに一瞥して避けて通るけど、それを気にすることができない。 私は咄嗟に俯いた。 日陰でも、まとわりつく真夏の熱のせいか、妙に息苦し。 「ドイツのコンクール前に、東京シンフォニーとやることは決まっていた。日本での本格的なデビューになるからって、スポンサーも付いた。 マネジメントしてる人、母の知り合いでね、やり手で、結構なスポンサーを見つけてきたよ。 で、その人も、スポンサーも、言うんだ。 是非、コンクールでは一位を、って。一位と二位じゃ、チケットの売り上げ違うからって。 あはは、言ってくれるよね。」 握っている手のひらは、どちらのかわからない汗で湿ってきたけど、 どうでもいい。 突然の律の話に、私は混乱している。 何を言うべき? どう声をかけたら正解? 「やだなあ、音葉、黙っちゃって。 あれ?困らせた? 音葉、本当に、真面目だね。」 そう言って、律は手を離し、 ごめんね、ここでいいよ、と言って、私をそこに残して、行ってしまった。
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