104人が本棚に入れています
本棚に追加
「たぶん、子どもの頃、初めて会ったときから気になった。
初めて会ったとき、舞台袖から音葉の演奏見ていて、何で、そんなに楽しそうなんだろって、ピアノ弾くだけのことに、さっきまで、この子すっごく緊張してたくせ、なんで楽しそうなんだろうって、気になって。
それで、続けてたら僕もわかるかなって。
この子みたいに音楽楽しいって思えるようになるかなって。これが続ける理由になった。
「だけどさ、大学で再会して、一緒にいるようになって。
楽しかったよ、一緒にいること。
ただ、知ってるだろうけど、親のことで、昔から、環境に恵まれてるから上手なんだとか言われたり、親が先生だからって周りから期待されたり。
音葉も、悪気はないんだろうけど、好きな子にもそう思われるのも、言われるの結構、嫌だった。
だから、音葉に認めさせたかった。自力で、親とか関係なく、僕がやれることを。
だから、選考受けた。
認めて欲しかった。
音葉にだけは、親は関係なく、自分だけ見て、認めて欲しかった。
初めて会った時みたいに、僕そのものだけを凄いねって認めて欲しかった。
ああ、僕のやったこと、裏目に出てたんだ。ね。」
そう言うと、律はアイスコーヒーを一気に飲み干して、千円札をテーブルの伝票脇に置き、
「ごめん、先に行くね。」
そう言って、店を出て行った。
最初のコメントを投稿しよう!