preludio

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朝、時計の代わりにつけっぱなしのテレビ。 公共放送のニュースが流れる。 政界の人事とか選挙やら、自動車メーカーの話題の新技術とか、右から左で聞き流し、出勤の準備をする。 私は、文武両道を掲げ、進学は県内でトップを争い、陸上部や放送部が関東大会に出場するなど、部活動も活発なT高校で、音楽の教師をしている。 音大を卒業して教職に就いて六年。一昨年からは吹奏楽部の正顧問もしている。 ニュースがそれまでの政治経済から話題を変えた。 「次のニュースです。若手ピアニストで、先月、ドイツの国際コンクールで2位になり、今年の9月国内のオーケストラと共演することが話題になった、神崎 律さんが、体調を崩して都内の病院に入院したと、神崎さんの所属事務所から発表がありました。なお、9月の演奏会は中止が決まったとのことです。」 一瞬にして、私の周りから音が消えた。 部屋には、私の心臓の鼓動だけ響いている。 体の芯がズキンと痛い。 捨てたはずの痛み。
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