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拝啓、巻貝の奥より。
それは、私がまだ幼稚園児だった頃のこと。
自分で言うのもなんだが、私は結構な“おませ”な子供だった。幼稚園児の頃のうちからひとしきり平仮名は読めたし、なんなら簡単な漢字も読めていた。ちょっとした計算くらいはできていたし、大人の人が好むようなポップスで好きな歌がいくつもあった。それらを少し聞いてはあっさり覚え、自慢げに披露するような生意気で高飛車なところもあったのだった。
まあようするに。
自分は同年代の子供達よりちょっと賢い、という自覚がある、なんとも可愛げのない子供だったのである。
実際私は他の少年少女たちより頭半分くらい背が大きくて、みんなのお姉さん的なキャラクターとして頼られていたのだった。
『うわあああああん、ひよりちゃんんん!りっくんがいじめる!』
『ちょっと、りっくん!』
友達が泣いていたら、私は大好きな魔法少女になりきって助けに行く。当時、ある魔法少女アニメが子供達の間で大ブームになっていたのである。
『ナナミちゃんをいじめるこはゆるさないわ!くらえ、ピュアビーム!』
ビーム、なんて言うが当然ビームなんて出せない。なので、言いながら決めるのは手刀の一発だ。
それでも他の子より体が大きくて力が強い私の一撃は、いじめっ子の男の子にはよく効く。男の子は大袈裟に悲鳴を上げて逃げていくのだった。
『いてえええええええ!先生、ひよりがいじめるううう!』
『いじめてない!あんたたちが先にナナミちゃんをたたいたんでしょ!ひよりはわるくないもん!』
『びええええええええええええええ!こわいよおおおおおおおおお!』
『おおげさに泣くなー!!』
まあ、こんなかんじ。
そりゃあ、男の子に怖がられるデカ女、が完成するのも無理はない。私は女の子たちと一部の男の子には頼られ、一部の男の子たちには怖がられる女の子として有名になっていったのだった。
そして私も、どこかで同じ幼稚園の男子たちのことを下に見ていたように思う。同時に彼等は、私にとってけして恋愛対象にはならなかった。何故なら誰も彼も、テレビの中のヒーローや年上のアイドルたちと比べると幼くて、未熟で、王子様に相応しくなかったのだから。
――どこかにいるはずなんだから。あんた達よりずーっとかっこよくて、ステキな、ひよりの王子様が!
ちょっと達者な女の子ほど、痛い妄想にハマるというものである。
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