拝啓、巻貝の奥より。

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 ***  さて、そんな可愛げのない私の、年長さん時代のこと。少しだけ不思議な出来事があったので、話したいと思う。  当時私が住んでいた町は海の近くであり、幼稚園も海のすぐ傍にあったのだった。そして、非常にゆるーい町だったのである。どれくらい緩いかというと、しょっちゅう先生達と一緒に散歩と称して海岸に足を運ぶことがあったくらいには。  多分今の時代だと、やれ煩いとか、やれ危ないとか言われて禁止になってしまっているのではなかろうか。  少なくとも、当時は当たり前のように行われていた行事だったのだった。海に入るのは禁止のはずが、時々何人かの悪戯好き男子が波打ち際まで行き、女の子に海水をぶっかけて叱られていたり、自分が波に攫われそうになって泣いていたりというところまでデフォである。先生たちもきっと見張るのが大変だったことだろう。  で、私はといえば。ちゃんと“水に入ってはいけない”ということはわかっていたので(あくまで海岸を散歩するだけなので、水着どころかビーチサンダルも持ってきてはいない)、砂浜で貝殻拾いをして遊ぶのを趣味としていた。他の友達も同様だ。誰が一番綺麗な貝殻を見つけるか?そんな遊びを毎回のようにしていたように思う。  ある日のことだ。 「見て見て、ひよりちゃん!」  親友のナナミちゃんが、ツインテールを揺らしながら駆け寄ってきたのだった。 「すごいでしょ、大きな巻貝見つけちゃったー!」 「わあ、すっごーい!さすが、ナナミちゃん!」  彼女が持ってきたのは、虹色の巻貝だった。多分、本来は普通に白い色をしているのだろう。ただ、光の加減でキラキラと虹色に輝き、大層綺麗だったのである。  波消しブロックの近くに落ちていた、とナナミちゃんは証言した。不思議なことにひび割れどころか傷一つない。そして、中に海水や砂がたまっていることもない。あまりに綺麗すぎて、作り物を疑ったほどだ。  とはいえ、ナナミちゃんの前でそんなことを言うほど私も野暮じゃあない。ましてや。 「これ、ひよりちゃんにあげる!」  ナナミちゃんが、目をキラキラさせながら言ってきたとあっては尚更に。 「この間、いじめられてたの、たすけてくれたお礼!ひよりちゃん、だいじにしてね!」 「ほんとに?ありがとう、ナナミちゃん!」  彼女は最初から、私にプレゼントするつもりだったようだ。私は掌サイズの巻貝をゲットして、家に持ち帰ることになったのだった。  ひょっとしたら本物ではなく、なんらかの人工的な玩具かもしれない。けれど大事なのはこれが本物かどうかじゃなくて、大好きなナナミちゃんがこれをプレゼントしてくれたという事実の方ではなかろうか。幼くして、私はそれをちゃんとわかっていたのだった。
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