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本来ならば大人に相談するべき案件だっただろう。しかし、私が相談したのは翌日、友達のナナミちゃん相手だったのだ。
というのも、貝殻の奥から声が聞こえてくるなんて変ではないか。本物の魔法使いでもなければ、そんなことはできない。そして、魔法使いなんて、大人の人が信じてくれるとは到底思えない。
お父さんやお母さん、幼稚園の先生に言ってもきっと真剣に取り合ってくれないだろう。同じ“魔法少女キュア”のアニメが大好きなナナミちゃんなら、きっと話を信じてわかってくれると思ったのだった。
「それ、すごいね!」
案の定、ナナミちゃんは私の話を馬鹿にしなかった。
「それで、ひよりちゃんはどうするの?会いたいの?会いたくないの?」
「……わかんない」
園庭のベンチに座り、私は首を横に振った。
「かっこいい声だったし、未来の恋人ってどんな人なのか気になるけど。でも、知らない人と会ったら、ママとパパにおこられそうだし。それに、ひょっとしたらわるいひとかもしれないし、だまされてるのかもしれないし。でも、ひよりにもステキな恋人ができるかもしれないって思ったら、どんな顔の人なのかとか、お話聞いてみたいとか、そう思わなくもないし……ナナミちゃんだったら、どうする?」
「うーん。私も迷うけど……」
ナナミちゃんはベンチで足をぶらぶらさせる。体が大きな私と違って、ナナミちゃんは座ると地面に足がつかないのだった。
「私は、会わない、と思う」
「どうして?」
「楽しみはとっておきたいもん。どんな人に出会えるのかなあ、って、楽しみにしておきたいなあって。知ったらつまんないかなあって」
それに、と彼女は続ける。
「大好きな人のこと、何もかも知りたいって、そういうのはわかるんだけど。でも、本当に知りたいなら、大人になったひよりちゃんにきけばいいんじゃないかなあ。それなのに、ナイショで幼稚園のひよりちゃんに会いに行くのって、なんかちがうような気がする。だって、みんなナイショにしておきたいことはあるでしょ?私にもあるし、ひよりちゃんにもあるでしょ?いくら大好きだからって、人が、ナイショにしておきたいことまで知りたいって思うのは、ダメなんじゃないかなあ。ガマンしないといけないことなんじゃないかなあ。って、私はそう思うんだけど……」
体は小さいけれど、彼女もまた賢い女の子だった。少なくともルビが振られた本なら児童書も読めるくらいには。そしてその賢い頭で、一生懸命私のためになる答えを考えてくれたのである。
人が秘密にしていることを、無理に暴いてはいけない。それは、幼稚園の先生にも教わることだ。
ナナミちゃんの意見はとても筋が通っていたし、納得できたのだった。
「……うん、わかった」
私は頷いて、ナナミちゃんに告げたのだった。
「ひより、伝えるね。貝殻の、未来の恋人さんに……会えないってこと」
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