あなたに会いたい

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「もー、知らない。あんな奴」 「なーんだ、また喧嘩したの? 夫婦喧嘩は犬も食わないって言うけど、ホント毎回毎回飽きないよね」  今日の彼の態度を思い出して、真紀は学校からの帰り道、友達の涼子ちゃんに思いっきり愚痴をこぼす。でも、涼子ちゃんは、いつものことでしょ? という感じで、ぜんぜん相談に乗る気配がない。 「こんどという今度は、本気なんだから。運動ちょー得意でプロ野球のスカウトマンに狙われてる花形君や、定期試験ではいつも学年トップの出木杉君、それに女子達の憧れの的のジョニー君。彼らの爪の垢でも煎じて飲ませたいよ」 「ふーん、そうなんだ。ついに堪忍袋の緒が切れちゃったのかー。確かに、彼にも悪いところあるものね。真紀にも少し同情しちゃうかな」  ふと立ち止まって、涼子ちゃんはいきなり振り返る。それから一呼吸をおいて、すばかすが少し目立つ黒縁メガネの真紀の顔をぐいいーんと覗き込む。 「じゃあ、彼にすこしお灸をすえちゃおうか」  そう言って、ちょっといたずらっぽく微笑む。  涼子ちゃんが空いている右手を上下に軽く振ると、そこにはアニメでよく見る魔法使いが使う杖がポンっと現れる。  現れた魔法の杖をぐるぐる回しながら、よく分からない言葉をブツブツと唱える涼子ちゃん。  するとそこにはキラキラ光る小さな小瓶が。 「えへへ、実はあたし魔法少女なんだ。ごめんね、いままで秘密にしてて。この魔法の惚れ薬を飲むと、真紀ちゃんもモテモテになれるんだよ。これで、花形君も出木杉君も、ジョニー君も真紀ちゃんの好きに出来るよ」  そう言って小瓶を彼女に渡しながら、真面目な顔で付け加える。 「でもね、この薬、ヤバイ副作用があるんだよ。今まで付き合って来た彼との記憶が無くなっちゃうの。だって、モテモテになるんだから、過去の男なんかいらないでしょ?」  小瓶を両手でしっかりと持った真紀は、その言葉を聞いて一瞬だけ考えるも、キュポンと小瓶のフタを開けてグイっと飲み干してしまう。  すると彼女の身体はキラキラと光ってソバカスが消えて行く。 「真紀ちゃん、可愛いよ! コレで花形君も出木杉君もジョニー君も貴女に夢中さ」  涼子ちゃんはそう言うと、びしっと親指を突き出しながら真紀ちゃんにウインクしてみせた。  * * * 「お願いだ、ぜひ僕とプロ野球を見に行こう。スカウトマンに頼んで二人だけのラブラブ席を押さえてあるからね。僕が全身全霊をこめて、野球と愛の素晴らしさを、キミに伝えたいんだ!」 「なんて愛くるしいんだ。僕の持っている知識を全て足しても、キミの可愛さには敵わないよ。さあ、図書館に二人で籠って愛に関する僕の知識を語ってあげるよ!」 「ハーイ、スーパーなチャーミングガール。ボクが今まで築いてきたクールでガイでハイセンスなビュティーパワーを、二人だけになれるセキュアな場所でギブするからね!」  翌朝、真紀が学校に行くと校門の前には花形君、出木杉君、ジョニー君の学校カーストTOPスリーの男子高校生が目をキラキラさせながら、片膝を地面に付けて、バラの花束を差し出して、彼女への求愛のメッセージを次々と披露する。  その異常な求愛を避けるように、彼女は彼らの間をすり抜けて教室に逃げる。  涼子ちゃんの惚れ薬、効き過ぎだよー。彼らの私を見る目って明らかに常軌を逸してるわよ。まるで、発情したオスがメスを求めてるみたいで、ちょー怖いんですけど。  それに、結局のところ、彼らは私の女の部分しか興味がないみたいだし。  自分達の優れている部分だけを強調して私に押し付けてマウントとろうとしているみたいで、ちょっとやな感じかな。  それよりも、私を見ててくれる、私の良いところを見つけてくれる、そんな人の方がいいかも。スポーツが一流じゃなくても、勉強がトップクラスじゃなくても、ましてやビュティーなイケメンじゃなくても、なんか普通が良いよね。  そんな人、どこかにいないの?  そんなあなたに会いたい、かな。  そう思って、彼女が教室に行くために廊下を曲がろうとする先には、昨日真紀ちゃんにしたことを後悔しながらとぼとぼと歩いて来る彼の姿が…… (了)
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