点灯式へのお誘い

2/2
110人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
◆◇◆  翌日、この話を学校でゼロス達にもすると意外な答えが返ってきた。 「それ、俺も昨日誘われたぞ」 「ゼロスもか? ってことか、誰かがクラウル様とファウストに入れ知恵したんだろうな」  お世辞にもこうしたイベントに詳しいとは思えない二名が同じタイミングだ。そうなるとおそらく……。 「それ、多分シウスだと思う」 「やっぱりか」  今世ではラウルも同級生だ。控え目に手を上げて苦笑するラウルに、ランバートもゼロスも笑ってしまった。  ちなみにシウスはファウストの同級生で階級は警視で上だが、前世と変わらない関係らしい。  クラウルは公安だが同級生で職場も近い事から相変わらずの関係が続いている。  オスカルは自ら警備会社を立ち上げ、主にSPの派遣なんかをしている。これがかなりの大企業だ。  エリオットはハムレットと同じ病院の第二性科の医師をしている。お世話になっているのだ。 「シウス様はそういうのマメっぽいからな」 「そうだね。ちなみに二人は何処で待ち合せするの?」 「ツリーの周辺」 「同じく」 「ザックリだね」 「お前が何処にいるかなんて、匂いを辿れば絶対に分かると豪語された」 「ゼロスもか。俺も同じだが……多分、出来るよなあの人達」 「言葉だけ聞いてると変態っぽく聞こえるのは何でだろうね?」  苦笑するラウルに、ランバートもゼロスも同じく苦笑だ。  だが、運命と言えるオメガのフェロモンをアルファであるあの人達が間違える筈がない。例え群衆の中だって見つけるだろう。それだけ、二人とも強いアルファなんだ。 「ラウルは?」 「レストランを予約したらしいんだ。なんだか気後れしちゃうよ。僕は普通の家の出で高校生だから」 「ドレスコードのない店だろ? そう気を張る事はないって」 「うん、そうなんだけどね」  不安そうな事を言うわりに、ラウルの表情も柔らかい。多分待ち遠しいくらいには楽しみなんだろう。  何にしても前世からの絆と記憶を引き継いで今世にきた面々は、恋人との楽しいイベントが言葉以上に楽しみなのである。 ◆◇◆  家に戻って約束の時間。ゲームを立ち上げVRゴーグルを装着して起動させるとお馴染みのゲーム世界。没入型RPGの世界はまるで前世のようで、何となく懐かしくなる。  ここでも季節柄雪が降り、そろそろイベント告知がされる感じがある。 「ランバート!」 「チェスター、トレヴァー」  軽い装備のチェスターと、がっちり装備のトレヴァーが近づいてきてハイタッチをする。二人とは高校は別だが何だかんだで繋がりがあり、こうして同じゲームでギルドを立ち上げている。 「今日ゼロスは?」 「今日はちょっと予定合わなくなったみたいだ。コンラッドとラウル、レイバンは来るって」 「もう来てたりして」  声と首筋を撫でる指は同時で、思わずゾワゾワっとする。  相変わらずの褐色に紫の目、黒髪眼鏡の色男はにんまりと皆を見た。 「久しぶり、レイバン。この間どうしたんだ?」 「あぁ、タイミング悪くヒートきちゃってさ。抑制剤飲んでるから軽く済むけどゲームの気分じゃなくて」 「あぁ、なる」  トレヴァーが不憫そうな顔をする。それというのもトレヴァーとチェスターはアルファだ。そして既に恋人と出会っているらしいが……色々と問題があるようで上手くいっていないとか。 「それより聞いてよ。ジェイさんがクリスマス特別ディナー作ってくれるんだ」 「へぇ、いいね」  レイバンの恋人ジェイクは都内で個人レストランを持っている。予約が取れないレストランとテレビでも話題になったが、取材はお断り。雑誌にも滅多に出てこないが口コミでこの人気だ。相変わらず凄い人だ。  そしてレイバンはそんな彼の店で働くべく、春から調理師の学校に行きパティシエを目指すそうだ。 「すまない、遅れた」 「ごめん、遅くなった」  コンラッドとラウルも合流する。コンラッドは剣士らしい剣士の格好で、相変わらず品行方正な感じがする。一方のラウルは完全に暗殺者のそれだ。  それを言うとレイバンもかなりの軽装で職業はシープ。もう少しランクを上げて特別ミッションをクリアすれば忍びに上がれそうだ。 「どうしたの?」 「クリスマスの予定。ランバートはファウスト様と今ラブラブなんだろ? 予定入った?」 「クリスマス当日は泊まる予定になったよ」 「おっ、とうとう番になるのか?」 「それは分からないかな。一応高校卒業までは待つって言ってるし」  ただ、その場の雰囲気とか勢いとかでそうなる可能性は否定できないんだよな。ファウストの前でカーラー着けるつもりもないし。  でも、それでもいいんだ。本当なら早く番になってしまいたいくらいだし、なんなら早めに子供を産むのだって嫌じゃない。今はオメガに寄り添う政策も多く、出産と子育てに関する休学の許可やリモート履修も可能だ。それなら子育てしながらもいい気がしている。 「いいなー。俺もリカルドとクリスマス過ごしたい」 「過ごさないのか?」 「健全なデートまでで、夕飯前にお別れ。流石に自分の学校の保険医だし、卒業式までは最悪待たないとさ」 「あぁ……」  そこが難しい所らしい。  リカルドはチェスターが通う学校に今年赴任してきた保健医だ。  勿論彼等の間に諍いがあるわけではなく、出会って直ぐに互いを認識して将来を誓った……までは良かったんだが、流石に自分の学校の保健医を運命の番だからと直ぐに番契約してエッチな事ができるかと言えば無理だ。主にリカルドの立場が悪くなる。それでチェスターは現在待て状態継続中だ。 「チェスターはまだいいだろ。俺なんてキアに遠巻きにされてさ。いい加減心折れそう」 「めっちゃ意識してるのに、頑なに番は拒否してるんだっけ」 「そのくせちょっと縋ってくるから忍耐試されてる。俺、頑張って大人になる」 「大変なんだな、トレヴァー」  コンラッドが苦笑して、ランバートも頷く。  キアランもトレヴァーと同じ学校の数学教師で今年赴任してきた。だが、何故か拒まれているらしい。その理由も分からないままだ。 「コンラッドはハリー見つけられたのか?」 「あぁ、いや……まだなんだ」  チェスターの質問に、コンラッドは歯切れ悪く返した。  高校3年生の夏休み前に、一斉に第二性の検査が行われる。まぁ、早い者はそれよりももっと早く気づいているが。  夏休み明けに検査結果が出て、アルファとオメガは国による番調査への同意書を書く。これは遺伝子的にベストな相手をデータベースから導き出して通知、連絡許可に「可」があれば互いに通知して公的に場が設けられて顔合わせが出来るシステムだ。ランバートも一応これでファウストと顔を合わせた。  コンラッドはアルファで、勿論これに「可」と書いて出している。が、未だにハリーは見つからないままだ。 「まぁ、田舎の方とかだとこの制度徹底されてないらしいし、気長に待とう」 「そうだな。番ならそのうち自然と巡り会う可能性が高いし、ハリーの顔も覚えてるんだから大丈夫だって」 「あぁ……そうだな。悪い、空気悪くして。それじゃ、今日もクエスト行くか」 「だね」  連れだって冒険者ギルドへクエストを見に行く。それぞれの事情を抱えながらも新しく進もうとする仲間達と、またこうして一緒にいられる楽しい時間を過ごす為に。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!