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「ねぇ聞いた?204号室の谷川さん」
「聞いた聞いた。すっかり別人になっちゃったんだってね」
アパートの階段下で、2人の主婦が井戸端会議をしている。
「ちょっと前までは愛想がいい可愛らしい人だったのにね」
「でも人間、ちょっとやそっとじゃ変わらないでしょ?きっと上手いこと隠してたのよ」
会話が一区切りついたところで、階段を降りる足音が響く。主婦たちは口をつぐんだ。
「レオ様はどこ行きたい?私はね、遊園地でしょ?あとは……」
次の瞬間。ボサボサの髪に、ヨレヨレの毛玉だらけのジャージを着た女がアパートの外階段を降りて来たのだった。
「ふふ。うん、そうだね。全部行こう」
身なりに気を使っていない女は、話題に出た204号室の住人に違いなかった。
主婦たちは、声を潜めながら「聞かれてないよね」と確認し合う。
女は気にしない素振りで、誰かに話しかけるように空を見ながら呟くと、アパートに背を向けてどこかへ歩いていく。
その顔には不気味な笑みが浮かべられていた。
END
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