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私とあの子
女の子がいた。
女の子は私の友人だった。
女の子は遠い街に住む子だった。
その子とは夏休みのキャンプで出会った。新聞のチラシに掲載されたキャンプの募集。場所は、多分一生に一回だって行かないだろう、名前だって知らない離島。そこで私たちは一週間を過ごした。
島へ渡る船を私は一人で待った。
周りは知らない子どもたち。名前は当然、中には会話できるか不安になる言葉を話す子もいた。自分はどうだろう。すごく不安になった。
そんな私に声をかけてくれたのがあの子だった。
あの子は私の三つ上、知らない街に住んでいる一人っ子だった。
私は小学生、あの子は中学生。とても大人に見えた。そう、とてもオトナだった。
あの子は私を妹として面倒をみてくれた。私もあの子を姉として慕った。私たちは二人とも一人っ子だったから、「姉」と「妹」が欲しかったの。
キャンプの一週間は自由だった。一日の大半を拘束されることなく好きな場所へ行って好きなことをする。
危険な場所へは行かなかった。特に火や水の事故には注意した。寝泊まりするコテージを離れる時にはスタッフの大人に声をかけることも忘れない。
私たちは本当に自由だった。
島の住人は僅かだった。高齢化が進みきり、残されたのは孫も子もいない老人たち。
彼らは地元の土を踏み荒す私たちを歓迎してくれた。それだけじゃなくて、島の案内や説明までしてくれた。冥土の置き土産だなんて言いながら、本当はきっと寂しかったんだ。私たちは彼らの声に熱心になって耳を傾けた。
田舎を通り越して大自然しかない島は面白かった。見たこともない植物や動物、風景は私の心を洗い流した。
毎日楽しかった。その瞬間はいつだってあの子と一緒だった。
あるお婆ちゃんが私たちにあのオマジナイを教えるまでは。
明日はとうとう帰らなきゃいけない。その夜に、きもだめしは行われた。
仕掛人は島の人たち。キャンプでやって来た私たちは大人も含めて何にも知らなかった。ただ、きもだめしをしよう。それだけだった。
コテージから近い場所にある集落の集会場にまずは行け。そこで婆さんが待っている。
私たちは二人一組で集落へ向かった。私はもちろんあの子と一緒。夕日が沈んでいく道を二人で歩いた。
もうすぐお別れだね。そんなのイヤだ。
まだ覚えているよ。あの時の会話。
あんなにお別れがイヤだったことなんてそれまでもそれからも片手で足りるくらいしかなかった。大事だった。あの子は私にとって大事で大切な存在だったの。
だから約束した。
キャンプが終わっても、家に帰っても、連絡を取ろう。電話でも手紙でもなんでもいい。それで、また会おう。
私たちは約束した。
約束がなくならないように、しっかりと手を繋いだ。
集落までは一本道だったと思う。周りに何にもない道。遠くから海の匂いと波の音が風に乗って通り過ぎていった。
しばらく行くと古い家がぽつぽつ見えてくる。でもそこには明かりがない。
誰も住んでいない家。人が入らないと建物はあっという間に朽ちていく。人の手は植物や風や雨に負けないよう、壁を押さえ続ける。屋根を直し続ける。床を踏み続ける。その上で火を起こして光とあたたかさを守り続ける。
それが生活するってことなんだ。スイッチ一つで何でもできる世の中じゃ忘れちゃうよね。でもその島はまだそうやって生きていた。
もう誰もいない島には明かりはない。
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