老婆の語る古いまじない

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お婆ちゃんが私たちに語ったのは古いおまじないだった。 大事なものを隠しながら願い事を決める。それが見つかっちゃえば願い事は叶わない。もし見つからなければ、その願いは叶う。 星隠しのおまじない。 お婆ちゃんは最後に、私たちの繋いだ手を見てこう言った。 「大事にしなね」 懐かしいものを見るように、お婆ちゃんは笑った。 私たちはお婆ちゃんの手を見ないようにした。そこが誰かの手と繋がっているように思えたから。 そのお婆ちゃんを見たのは、それが最初で最後だった。 彼女が誰だったのかは今でもわからない。 集会場の次は山が見える方向へ向かった。私たちが夜でも歩けるように、道の脇には看板と松明が一定の間隔で立って待っていた。 新しいそれに、島の人たちが余所者のためにわざわざやってくれたんだと知った。夜の闇は全く怖くなかった。 道の先に何があるのかは私もあの子も知らなかった。でもきもだめしだ。何が待っていると思うか、どきどきしながらあの子に聞いた。あの子は悪戯っぽく笑って声を潜めた。お墓かもよ。 私は怖くなかった。だって隣にはあの子がいるんだもの。怖くなんてない。だからわざと怖がったふりをして、手を強く握った。絶対に放さないでねと言いいながら。 私たちはわざとゆっくり歩いた。 明日にはさよならだ。少しでもこの時間を伸ばしたくて、私たちはゆっくりと歩いた。 ゆっくり、ゆっくりと、歩いた。 それでもその場所は見えてきた。木造の廃れた建物。家とは違う横に長い大きな形。そこは学校だった。 島には子供なんて一人もいない。そこは廃校だった。 私が通ってる学校よりもずっとずっと小さかった。でもどこか同じ雰囲気を感じる建物が其処には残っていた。 あの子もそれが学校だとわかったみたいだった。学校には教室がいくつもある。何処へ行けばいいのかわかるだろうか。芝生みたいに草が生えてしまった運動場の前で私たちは止まった。 学校の名前が書かれていただろう看板を見つけることはできなかった。 入り口はすぐにわかった。大きく口を開くように戸が開けられていたから。でも誰もいない。そこから入った後のことを私は心配した。 他の人はどうしたんだろう。私が思ったことを、あの子が言った。 試しに持たされた懐中電灯で校舎を照らしてみた。光は届かなかった。でも他にどうすればいいのかわからなくて、懐中電灯を振り回した。 運動場の草原には誰かが入った様子はない。草が一本も倒れていないのが証明していた。 私は校舎の方しか見ていなかった。いつも見ている校舎。それだけに気を取られていた。 懐中電灯を投げ捨てそうなくらい私は苛立ち始めた。その時、隣からあの子が手を引っ張るのがわかった。 そっちを見るとあの子が自分の懐中電灯で運動場の隅、草が生えていない変な場所を照らした。 そこにはアーチがあった。多分昔には藤とかの棚を作る植物が植えられていたのかもしれない。もう残ってはいなかったけど、そこの地面だけは草が生えていなかった。 アーチは校舎の方へと伸びていた。 あの子が私の手を引いて、行こうと言った。その子は私なんかよりもずっと大人だった。
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