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「どうしてそんな勝手なことをするのッ!!」
食べている途中だった朝食が乗ったテーブルを怒りのあまりバンッと叩きつけ、浴びせた怒声がリビングに響き渡る。
眼の前にいる怒りの元凶、父さんは読んでいた新聞紙をくしゃりと握りしめ、恰幅の良い体を震えさせながら萎縮して怯えているが、そんなのは自業自得だった。
顔を青ざめさせうるうると潤んだ瞳を僕に向けて赦しを得ようとしてくるが、到底許せる事ではなく逆に怒りを煽ってくる。
許せるはずがない。僕になんの相談もせずに、父さんが独断で選考した候補者数人に僕の花婿の座を競わせるなんてことを。しかもなんと、全員が男。
なにより許せないのは、候補者の中にいる一人の男の存在だ。その男から逃れて人生を歩むのが人生の目標であるのに、身勝手な父親のせいで握りつぶされようとしているのだ。
「まあまあ、伊織。学校を控えた朝にそんなに興奮しては後に響きますよ。疲れて授業中に寝てしまってはいけませんからまずはお茶でも飲んで落ち着いてはいかがでしょうか?」
怒る僕と怯える父さんの張り詰めた空気をよそに、一人僕の隣で穏やかに朝食を摂っていた男は微笑みながら冷たいお茶が注がれたコップを差し出してくる。
なにを無関係な顔をしてるんだと鋭く睨みけるが、どこ吹く風のように澄ました顔を崩さない。
「じゃあ僕の今後のために今すぐ候補を辞退してよ!」
引ったくるようにコップを奪えば中身のお茶が揺れて少し零れるが、今はそんなお行儀の悪さよりも激しい怒りの方が勝っていた。
男ーー神城湊斗はスーツの胸ポケットに差していたハンカチを取り出し、零れたお茶が掛かって濡れた袖口を拭く。後ろめたさに僅かに心を揺るがされるが、気を持ち直して毅然と怒りを主張する。
「それはできませんよ。愛する伊織を花嫁に迎える権利を譲ることなどできません。理解してくれますね伊織」
「できるわけないでしょ!?」
父さんが勝手に選んだ人間の中で、僕が最も選びたくない奴は紛れもないこの男なのだから。
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