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間違っても時代錯誤な催しを敢行してまで決める事じゃない。
その時だ。スマホが着信音を告げる。肌が粟立ち、恐怖に戦慄いた。
なぜなら今までの報告は全て、メッセージで行われていたからだ。五分前には追い詰められた戦況の報告があり、その全てが意味する答えにサアっと全身から血の気が引いていく。
応答しなければいけないと頭では理解しているのに、頭に張り付いた両手は離れず、凍り付いた両目は瞬きすることすらできない。
コンコンと、現状の冷え切った空間にはあまりに不似合いな穏やかな音が鳴る。
まさか――ギチギチと骨が軋む音を立てそうな鈍い動きで、音が鳴った方向を振り返る。その先には外を屈強なSPが守っている筈の部屋の出入り口になる扉がある。
コンコン、コンコンと。反応しない僕の応答を待つように、間隔を空けながら規則正しく扉のノック音が響き続ける。
「や……だ……」
声が引き攣り、強張った舌が絡みそうになる。知らず喉を鳴らせば、乾ききった喉が鈍い痛みを走らせた。
ガチャっと、僕以外には最後の砦となるSPのリーダーしかカードキーを持っていない筈の扉が静かに開く音がした。
コツンコツンと硬い靴音の振動が、床に敷かれた絨毯から伝わってくるようで、僕の両足をその場で固く縛り付ける。
足音が近づいてくる。
次の瞬間、一寸の乱れのない白いスーツが見えた。絶望に呆然と視線を上げれば、やがて視線は、最悪の結果へとたどり着く。
「ひ……っ!」」
悲鳴が喉の奥で潰れる。後ずされば、柔らかいクッションが僕の背中を押し返すようにして、僕の逃げ道を塞ぐ。
「こんばんは、伊織。お迎えに上がりましたよ」
聞き慣れた穏やかな声音は、僕の敗北を残酷に告げた。
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