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ズキズキと激しく頭が痛い。
どうして肝心の当事者である僕を差し置いて、こんな最悪な事態に陥っているのか。原因である父さんを鋭くにらみつければ、察知したように視線がかち合う前に逸らされた。
「僕の気持ちも考えてよ……っ」
目尻に涙を滲み、心からの言葉が吐き出る。思わず痛む頭を抱えれば、その手に今一番触れてほしくない湊斗の手が触れてきて最悪なほどに優しい声音で名前を呼ばれる。
「大丈夫ですよ伊織。貴方を必ず幸せにします」
「だから嫌だって言ってるでしょ……!?」
バシッと湊斗の手を払いのける。平行線を辿る会話に苛立ちは最高潮だ。
射殺す勢いで睨みつける僕をそれでも甘ったるい微笑で見つめる湊斗の腹立つ顔から背を向けて、傍のソファーに置いていた通学鞄をひったくるようにして手に持った。
「帰ってきたら絶対に二人きりで話をするから逃がさないからね父さん!!」
背を向けた状態でも小さな悲鳴を漏らした父さんが体を震わせているのわかる。今すぐにでも息子の機嫌を取りたい気配が伝わってくるが、僕は父さんを許す気は毛頭ない。
いつもならば出社する前の父さんと、社長である父さんを迎えに来た秘書である湊斗が運転する車で学校まで送迎してもらって一緒に家を出てうが、当然そんな気分ではなく一人で玄関に向かう。
白々しくも、すぐに湊斗は僕を引き留めてきたが怒鳴り返して勢いのままに僕は家を飛び出した。
どこまでも僕の気持ちなんて考えてくれない湊斗なんて大嫌いだ。
僕と湊斗は一回り歳が離れた幼馴染だ。僕が四歳の頃に、父さんが友人の子で僕に紹介したいからと家に連れてきたのが出会いだった。
その頃には憎々しいくらい、中学生だとは思えないくらい大人びていて綺麗に整った顔立ちをしていた湊斗は今では考えられない怜悧さのある少年で、幼い僕はたちまち湊斗に憧れを頂き、家族は母親のみである湊斗と、父さんのみである僕とは境遇も近く親近感もあり実の兄のように無邪気に慕ったものだ。
今では全てを黒歴史だとかなぐり捨てたいぐらいだ。
複雑な家庭事情を抱えた湊斗は父さんの配慮もあって昔から僕の家で家族のように過ごすことが多かった。今では湊斗は父さんの社長秘書にまでなり、近くのマンションに住居を構え、朝になると僕の家に来るのが日常になっている。
そんな日常も今年で最後の高校生活を卒業すれば終わりで、ようやく執拗な湊斗からにげだせる予定なのに。
「結婚なんてしたら逃げられないじゃん!!!」
あまりの憤りに人目も憚らず、通学路で叫びを上げる。
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