第一話 選択

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 「嘘だろ……年末の繁忙期で稼ぎ時だったのに……  あと二日で正月休みだったんだぞ?  それに、俺の大事な彼女だって置いてきた………  あと二日頑張れば、彼女と会えたのに……  これからアパート探して一緒に住もうって、一緒に約束してたのに……」  自分の"死"が受け入れられない。  バカな事をしたな、俺。  何故、近道として勾配のキツい山道を選んだのだろう。  車内のFMラジオで聞いた天気予報は、年明けまで晴れが続くと言っていたのに。  道の始まりである交差点を見て、日中に水分を多く含んだベタ雪が積もっていて、満載のヒアブなら重量でタイヤを吸い付かせて滑らないと思ったのに。  何故急に吹雪いた?  登り坂をアクセル全開で上がらないと登りきれない。  タイヤが空転したら、二度と登れない。  勢いを付けて上手く登りきったと思ったのに、ブレーキが効かないだなんて。  それに何故、下り坂で吹雪いた?  どうして下り坂だけ、ブラックアイスバーンだった?  なぜ、どうして。  思い出せば言い訳の連続。  思い出せばキリがない。  入社して二年。  ヒアブに乗って二ヶ月。  たかが二ヶ月の経験、されど二ヶ月の経験。  プロドライバーの端くれだが、迂闊だった。  油断と過信が重なって事故を起こし、俺は愛する恋人を現世に置いて呆気なく死んだ。  情けない。  死んでも………否、もう死んだけど死にきれない。  
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